『東京の階段:都市の「異空間」階段の楽しみ方』

松本泰生

(2007年12月30日刊行,日本文芸社ISBN:9784537255454



こんな本,いったい誰が読むのか(それはワタシ……) 実にすばらしい! ほかならない「階段」を被写体とする写真集だ.思い起こせば,伏見稲荷の全山を取り巻く真っ赤な鳥居に覆われた神域階段に始まり,渋谷・丸山町から神泉あたりの急傾斜極細階段群,そして本郷から谷中にかけての下町を縫うほのぼの階段などなど,ぼくが住む先々にはさまざまな階段があった.

そういえば,20年ほど前に“トマソン路上観察が流行した頃は,“純粋階段”を探したこともあったなあ.建築学を専門とする著者は,都内に残るさまざまな階段をサンプリングしている.階段そのものとそれを取り巻く風景の混ざり合ったところに,ある種の「美」が生まれるのか.私的には,集落を縫う狭い急な階段が好ましい.戦災で焼けていない文京区にはそういう階段がたくさんあった.いま住んでいる平坦この上ないつくばにはもとよりあるはずもない風景である.

それにしても,こういうテーマで学位論文が書けるというのはシアワセだなあ.