『化石の記憶:古生物学の歴史をさかのぼる』

矢島道子

(2008年10月10日刊行,東京大学出版会[Natural History Series],vii+219 pp.,本体価格3,200円,ISBN:9784130607513版元ページ

「化石」をめぐる研究者とその言説の歴史を明治時代の日本を出発点として,通常の科学史の本とは逆に,時間軸を巻き戻して,ギリシャや中国の古代にまでさかのぼる.まだぱらぱらとブラウズしているところだが,初めて見る写真(著者自身が撮ってきたものも多いようだ)や図表がたくさんあって飽きない.



同時代の Charles Darwin や Thomas H. Huxley から毛嫌いされた Richard Owen についても詳しく書かれている.博物館に巣食う(実際その通りなのだが)“悪鬼”のごとき写真ばかり今に伝わっているが,若い頃の姿とか孫娘を抱いた伝記の写真などを見ると,むしろ「いいヤツじゃん」と感じてしまう.「見た目が9割」だかなんだか知らないが,とくに科学史的な「昔の人」については,ごくわずかに伝承されている(選択バイアスもあるにちがいない)写真から人となりを“判断”してはいけないぞという教訓ですらある.



著者の研究上の出自は「カイミジンコの古生物学」ということになるのだが,そこから出発して研究者コミュニティだけでなくもっと広い社会の中での活動にも手を広げている.このたび出版された本書には,著者自身のこれまでの研究活動や広報活動の成果も随所に盛り込まれていて,意外なほど自伝的な色合いが強い.



—— あとがきを見て思い出した.著者とも親交が深かった阿部勝巳さんが不慮の交通事故で逝去されてから今年でもう10年になるという.その夜,彼は三崎の臨海実験所に自動車で向かうはずだったのだが,訃報の第一報を受けた教員仲間はいくら酒を呑んでも酔うことができなかったという(あとで聞いた話だ).