「7日間ブックカバーチャレンジ(バトン2)」

第二のバトンもめでたく大団円を迎えたので,下記にまとめる.

  • 【2–一日目】松本零士男おいどん(1)』(1976年12月20日刊行,講談社講談社漫画文庫・MA56], 220 pp., 本体価格280円)※最終巻:松本零士男おいどん(9)』(1977年8月15日刊行,講談社講談社漫画文庫・MA64], 214 pp., 本体価格280円)までの全9巻構成.掛け値なしの名作だとワタクシは断言する.後半になると主人公・大山昇太よりも “トリさん” から目が離せなくなる.そして『男おいどん』のエンディング名場面.駒場寮でワタクシの所蔵する全巻をイッキ読みしたある寮生は「ナミダなくしては読み通せない」とマジで涙を流した.
    https://twitter.com/leeswijzer/status/1257068812517535746
    https://twitter.com/leeswijzer/status/1257070029796864000

  • 【2–二日目】大友克洋童夢』(1983年8月18日刊行,双葉社[アクション・コミックス],東京, 233 pp., 本体価格780円)※ワタクシ的にはのちの代表作『AKIRA』よりもこちらの方が評価がずっと高い.尋常ならざるディテールの描き込みぶりもさることながら,天地を逆転させた浮遊感とか細かな伏線の張り方.
    https://twitter.com/leeswijzer/status/1257492069209108486

  • 【2–三日目】竹内吉蔵『原色日本昆虫図鑑(下)』(1955年9月1日刊行,保育社,大阪, 190 pp., 本体価格1,700円)※ワタクシが中学入学後すぐに買ったなつかしい図鑑の一冊.原色図版もさることながら,昆虫の分類群の和名がすべて “漢字表記” されていて,ノートに懸命に書き写した記憶がある.
    https://twitter.com/leeswijzer/status/1257833477321318400

  • 【2–四日目】ウンベルト・エーコ[河島英昭訳]『薔薇の名前(上)』(1990年1月25日刊行,東京創元社,東京, 413 pp., ISBN:4-488-01351-1版元ページ)と『薔薇の名前(下)』(1990年1月25日刊行,東京創元社,東京, 426 pp., ISBN:4-488-01352-X版元ページ)※ワタクシが『生物系統学』を書くときにさんざんお世話になったので,バスカヴィルのウィリアムや修道士アドソが文中にたびたび登場することになった.この『薔薇の名前』だけでなく,ウンベルト・エーコ[和田忠彦監訳|柱本元彦橋本勝雄・中山エツコ・土肥秀行訳]『カントとカモノハシ(上)』(2003年3月28日刊行, 岩波書店,東京, ISBN:4-00-022430-1)と『カントとカモノハシ(下)』(2003年7月29日刊行, 岩波書店,東京, ISBN:4-00-022431-X)でも,彼は分類に関わる推論と存在論について論じている.生物分類学は正しい意味で “存在の学” である.
    https://twitter.com/leeswijzer/status/1258185339920777216

  • 【2–五日目】分類といえば次はこれか:John R. Gregg『The Language of Taxonomy: An Application of Symbolic Logic to the Study of Classificatory Systems』(1954年刊行,Columbia University Press[Columbia Bicentennial Editions and Studies], New York, xii+71 pp.)※本書のおかげでワタクシは学位が取れたようなものだ.Gregg 1954 は確かに論理式がたくさん並んではいるけど,かの “ケンシロウ” や “ラオウ” ほどのコワさはないので,初心な生物学者たちにとっては心安らげる慰めがあったのかもしれない.もちろん,白眼亭・白上謙一くらいの論客ともなれば「もっと徹底的にやれぇ」となるのだろう.白上謙一『生物学と方法:発生生物学とはなにか』(1972年2月29日刊行,河出書房新社,東京, 220 pp.)の第四部「生物学と記号論理学 —— J・H・ウッジャーへの招待」(pp. 165-205)は公理論的生物学の紹介で,その元記事は『生物科学』掲載(1956).白上謙一『ほんの話:青春に贈る挑発的読書論』(1980年4月30日刊行,社会思想社[現代教養文庫・1017],東京, 306 pp.)にも「追補 —— J・H・ウッジャー先生訪問記」という文章が載っている.白上はもう少し長く生きられればよかったのにねえ.
    https://twitter.com/leeswijzer/status/1258593944612376576
    https://twitter.com/leeswijzer/status/1258644435744591873
    https://twitter.com/leeswijzer/status/1258646103940980737

  • 【2–六日目】Norbert Elsner(Hrsg.)2000. Das ungelöste Welträtsel: Frida von Uslar-Gleichen und Ernst Haeckel [3 Bände]. 2000年行,Wallstein Verlag, Göttingen, 1341 pp., ISBN:3-89244-377-7 [set]※エルンスト・ヘッケルと彼の愛人フリーダ・フォン・ウシュラー-グライヒェンとの往復書簡集.ヘッケルは彼が愛した女性たちの名をクラゲの種名にした.たとえば,最初の妻だったアンナ・ゼッテは Desmonema annasethe となり,同様に愛人フリーダは Rhopilema frida にその名を残した.しかし,二度目の妻であるアグネス・フシュケとは不仲だったためか最後までクラゲの学名にならなかった.ヘッケル–フリーダの書簡集は全3巻計1,300ページを超すボリュームがある.全編にわたりヘッケルの水彩画の書簡が散りばめられ,この上ない眼福だ.一方のフリーダさんはハートマークだらけの日記を残したりしている.こんな感じの愛人関係だったので,世間にバレないはずはないが,当時は “文春砲” みたいな突撃メディアは存在していなかったので(知らんけど),ものすごくゆったりしたテンポで,バクロ本が出版されたり,正妻アグネスさん側からの反論冊子が出たりと応酬はそれなりにあったようだ.そういう骨肉の争いを見聞きする前に,フリーダさんが若くして亡くなったのは結果的には幸いだったかもしれない.この “事件” があった当時ヘッケルはもう70歳近かったのだからホンマすごい.ワタクシもしっかり見習わないと(何をやねん).いずれにせよワタクシがヘッケルの大ファンになったのはこの大部の書簡集を読んでからだった.
    https://twitter.com/leeswijzer/status/1259102213445611525
    https://twitter.com/leeswijzer/status/1259107397794099201

  • 【2-七日目】西村三郎『文明のなかの博物学:西欧と日本(上・下)』(1999年8月31日刊行,紀伊國屋書店,東京,vi, 1-348[上巻]/pp.vi, 349-732[下巻], ISBN:4-314-00850-4ISBN:4-314-00851-2[下巻]→ 書評)※上下2巻計700ページ超のこの大著は日本と西洋の博物学を綿密に比較した名著.東アジア文化圏の “分類観” がわかる.生物多様性の科学が「記載の科学」から「分類の科学」へと変貌を遂げた時代にあった,博物学が目指したものが何だったかを問う本書の視点はワタクシにはとても説得力があった.読み物としても抜群に楽しかった.本書の詳細については20年前に書いたワタクシの書評をどうぞ.
    https://twitter.com/leeswijzer/status/1259366234396618754



以上をもって,ワタクシの “バトン業務” はオシマイとします.とくに,誰かにバトンを渡したりしないので,「われこそは」という方は勝手に拾ってつないでください.よろしくよろしく.