『赤坂檜町テキサスハウス』

永六輔大竹省二

(2006年3月30日刊行,朝日新聞社ISBN:4022500832



大竹省二撮影の写真をじっくり読む本.敗戦直後から1960年前後までの“テキサスハウス”に終結した人びとの懐古譚.著者たちの世代は“老人顔”しか今まで知らなかったのだが,大竹省二のモノクロ写真で若かりし頃の点景を見るのは意外で愉しい.芥川也寸志や團伊久磨の青年時代のポートレイトや,後の小沢征爾夫人に相対する坂本九春風亭小朝が突然顔を出し,谷川俊太郎作詞&武満徹作曲という黄金ペアがすでに形をなしている.戦後の放送や芸能に関わった業界人がつどった赤坂の“テキサスハウス”には,ときを同じくして漫画家の梁山泊となった池袋の“トキワ荘”とはまた異なるオーラがあったそうだ.関係者がまだ生きているから言えないことも多々あるようだが,そうこうするうちに,みんないなくなってしまうんじゃないかと心配しつつ.


『ダンボールハウス』

長嶋千聡

(2005年9月10日刊行,ポプラ社ISBN:4591088308



去年に出てすぐ買おうと思って忘れていた本.著者の学部卒業論文の単行本化だそうだ.こういうテーマを見つけるのが勝因だったのだろう.指導教官による解説記事の中で,今和次郎の「考現学」との関連性が指摘されている.今和次郎だけでなく,吉田謙吉の仕事にも同じような着眼が見られる.藤森照信(編)『吉田謙吉 Collection I : 考現学の誕生』(1986年11月25日刊行,筑摩書房ISBN:4480853480)の第IV章「路上の考現学」に,犬小屋の構造を観察した「犬箱の話 採集」という1928年の記事が載っている.これなど,まさに“ダンボールハウス”に相通じるものがあるように感じる.

それにしても,ダンボールハウスの“建築技術”はどのように伝承されているのだろう? 機能的制約からくるホモプラジーも少なくないだろうけど,“棟梁”がしきることもあるらしい.佐藤和歌子間取りの手帖』(2003年4月16日刊行,リトル・モアISBN:489815090X)を思わせる.