『和本入門:千年生きる書物の世界』

橋口侯之介

(2005年10月19日刊行, 平凡社ISBN:458283292X



誠心堂書店店主の和本の本.第1章「和本とは何か:その歴史と様式を知る〈初級編〉」を読む.江戸時代は書物(和本)が大量に流通した本読みの時代だったそうだ.(そういえば,中野三敏編の新刊に,江戸時代の書籍流通を論じた本があったっけ.)“外題”と“内題”のどちら重視すべきかとか,“物之本”と“草双紙”ではサイズがもともとちがうとか,本書で初めて知る話題も多い.

第2章「実習・和本の基礎知識:本作りの作法を知る〈中級編〉」は,和本を手にしたときの目のつけどころとか.著者名・題名・出版年のいずれをとっても一筋縄ではいかないわけですね.

さらに後半の章に進むにしたがって,どんどんディープな「和本界」の深みにはまっていく.第3章「和本はどのように刊行されたか:刊記・奥付の見かた〈上級編〉」.入り組んだ迷路のごとき闇といったふう.たとえば,和本への“書き入れ”や“傍線引き”には一定の作法があり,ぼくがいつも洋本に書きなぐっているような“書き込み”などとは品格がそもそもちがうらしい(pp. 200-204).

最終章である第4章「和本の入手と保存:次の世代に残すために」では,とりわけ“蟲たちとの闘い”が印象に残った.紙を食い荒らすシバンムシの幼虫を殺すためには「電子レンジで50秒チン!」するのが有効だそうだ(pp. 238-239).

本を「千年残す」ことを当然と考える世界があるということを知っただけでも収穫だった.なお,この本,洋本なのだが,手にした重みや手触りが和本的なのはその効果を狙っているからだろうか.