『円朝ざんまい:よみがえる江戸・明治のことば』

森まゆみ

(2006年10月10日刊行,平凡社ISBN:4582833403



明治時代の落語家・三遊亭円朝の足跡をたどる.円朝の地元“谷根千”エリアから始まって,まずは東京都下をぐるりと.次いで,甲州鰍沢から伊豆熱海への道行きに飽き足らず,さらには関東平野を北上し,伊香保に沼田に宇都宮.さらには北海道にまで遠出する.円朝落語のファンにとってはさらに深い読み方があるのだろうが,円朝噺と紀行文のうまい合体に,落語好きならずともきっと引き込まれるだろう.

たとえば,有名な怪談噺「真景累ヶ淵」は,それだけでもう十分に“因縁ネットワーク”が絡み合っていて,筋を読むだけでは全体像の可読性は低い.しかし,上には上がある.円朝の“上州もの”の中でも,「安中草三」は「あまりに筋が複雑なので本書に記すことを断念した」(p. 280)とのこと.

長大な落語を高座にかける噺家というのは芸力がとても高かったのだろうと思う.もちろん,それだけ込み入った噺を聴く客にもそれなりの体力があったにちがいない.

円朝噺の世界を自ら旅した伝記作家(とポン太さん)はいい本を書いてくれました.