『温泉文学論』

川村湊

(2007年12月20日刊行,新潮社[新潮新書243],ISBN:9784106102431



今年の年末年始を伊香保で過ごしているが,田山花袋温泉めぐり』(2007年6月15日刊行, 岩波書店岩波文庫 31-021-7], ISBN:9784003102176)を再読している.この本は,温泉を描いたという点で,文字どおりの「温泉文学」だろう.しかし,そのような意味での「温泉文学」は数少ないのかもしれない.『温泉文学論』と銘打ったこの新刊は,「温泉を描いた文学」の本ではなく,正確には「温泉を舞台にした文学」の話だ.それでも,有名無名な(広義の)温泉文学についての談義はとても楽しい.夏目漱石『満韓ところどころ』など,初めて知る作品もある.なお,本書に登場する温泉のほとんどは(韓国の湯崗子温泉も含めて),田山花袋の本に取り上げられている.その昔は文学の舞台になるほど栄えても,その後は寂れてしまった温泉は多々ある.




【目次】
はじめに 3
第1章 尾崎紅葉金色夜叉』:熱海(静岡) 15
第2章 川端康成『雪国』:越後湯沢(新潟) 37
第3章 松本清張天城越え』:湯ヶ島(静岡)/川端康成伊豆の踊り子』湯ヶ野(静岡) 61
第4章 宮澤賢治銀河鉄道の夜』:花巻(岩手) 77
第5章 夏目漱石『満韓ところどころ』:熊岳城・湯崗子(中国) 97
第6章 志賀直哉『城崎にて』:城崎(兵庫) 115
第7章 藤原審爾『秋津温泉』:奥津(岡山) 137
第8章 中里介山大菩薩峠』:龍神(若山)|白骨(長野) 151
第9章 坂口安吾『黒谷村』:松之山(新潟) 167
第10章 つげ義春『ゲンセンカン主人』:湯宿(群馬) 183
おわりに 199
テキストと参考文献 203
図版出典 207