『動物の環境と内的世界』

ヤーコプ・フォン・ユクスキュル[前野佳彦訳]

(2012年5月22日刊行,みすず書房,東京,491+xv pp., 本体価格6,000円, ISBN:9784622076889版元ページ).原書は:Jakob von Uexküll 『Umwelt und Innenwelt der Tiere』(1909年初版 / 1921年改訂版刊行,Verlag von Julius Springer, Berlin)

環世界(Umwelt)に関して,さまざまな生物ごとの詳細な各論を含む大冊.ユクスキュルの「環世界論」に関する要約本はこれまでも出版されているが,主著であるこの本が出たことの意義は大きいだろう.

まずは訳者による巻末の60ページに及ぶ解説「「カント二世」の生物環境論――ヤーコプ・フォン・ユクスキュルの今日的意義」から読むべきだろうか.系統樹が「一元的」であるという訳者の批判はそのまま受け入れるわけにいかない(進化史の解釈にも異論がある).ユクスキュルが自らの理論生物学の思想を育んだ「ダーウィンニズムの黄昏」の時代にあって,他の「反」ダーウィン主義に連なる多くの生物思想家たちとの間でどのような影響を及ぼし合ってきたかはたいへん興味がある.さらに言えば,ユクスキュルに連なる Ludwig von Bertarlanffy や Rupert Riedl そして Franz M. Wuketits ら「カント学派」の系譜が現代進化学の中では特殊な学的ニッチを占めていることを考えるならば,ユクスキュルの理論や考えに対しては科学史的な相対化がはかられるべきだろう.観念論・構造主義・システム論などこの学派が用いてきた“学問的武器”の数々はすでに明かされているのだから.

なお,訳者の前野佳彦さんは:フランセス・イエイツ[前野佳彦訳]『ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス教の伝統』(2010年5月15日刊行,工作舎,東京,878 pp.,本体価格10,000円,ISBN:9784875024293目次版元ページ )という大著を訳している.こちらはほぼ900ページもある兇器.