『椋鳥通信(上)』読み始め感想

森鷗外池内紀編注]

(2014年10月16日刊行,岩波書店岩波文庫・緑6-9],東京,481 pp., ISBN:9784003100691版元ページ

本書『椋鳥通信』は今から1世紀前の1909年〜1913年にかけて雑誌『スバル』に連載されたコラムの集成.日本に居ながらにして西欧の最新情報を “つぶやき” 続けた異色すぎる短文集.当時としては異例のスピードでの情報発信だっただろう.そもそも文学が好きではなかったワタクシは, “モリオウガイ” なんて今まで一度も読んだことなかったけど,ざっと眺めた感じでは,この本は例外的におもしろすぎる.

『椋鳥通信』の特徴はそのスタイルにある.内容的には江戸時代の『耳袋』のように,世間を飛び交う逸話や伝聞を網ですくい取る.たとえば,死んだはずのオスカー・ワイルドがよみがえったとか,コナン・ドイルが大手術をしたとか,シチリア島のマフィアが記者を殺めたとか,信憑性とは関係なくあらゆる情報のごった煮が発信されている.

もし鷗外にツイッターをやらせたら,ツイ廃一直線はまちがいないだろう.岩波文庫は1行35字なので,4行分の文字数がちょうど「1ツイート」に相当する.『椋鳥通信』には長めの “TwitLonger” はたまにあるが,大半は通常の “ツイート” の字数以内におさまってしまう. “ツイッタラー” としての鷗外.鷗外がセピア色の明治時代からいきなり現代によみがえって,精力的にツイートしまくっているような錯覚.そんなわけで,森鷗外『椋鳥通信』はワタクシにとっては意外な掘り出し物,というか鷗外おそるべしと認識を新たにしたしだい.

今回文庫化されたのは『椋鳥通信』の上巻(500ページ)だが,中巻と下巻も続いて出されるという.それぞれ同じくらいの頁数があるとしたら計1500ページか.時代を超越したツイッタラ森鷗外の “ツイログ” を読むようなもの.

関連して,この『椋鳥通信』に登場する全人名を調べあげた研究書があることを教えてもらった:山口徹『鴎外『椋鳥通信』全人名索引』(2011年11月刊行,翰林書房,東京, ISBN:9784877373214版元出版目録).