『日本考古学協会第81回総会 研究発表要旨』

(2015年5月23日,日本考古学協会,東京,232 pp., 税込価格2,500円)

帝京大学(八王子キャンパス)で開催された日本考古学協会第81回(2015年度)総会会場にて購入.講演ごとの要旨分量は見開き2ページ.石器や土器の描画が繊細きわまりない.きっとそのワザが伝承されてきたのだろう.巻末の宣伝ページにはそういう出土物の描画を専門に引き受ける会社まであるようだ.新鮮な驚き.

新鮮な驚きといえば,この大会で初めて見た「図書交換会」に触れないわけにはいかない.帝京大学グラウンド横の巨大な体育館で開催された図書交換会は,とても広い空間にもかかわらず,どこから湧き出してきたかと思うほど大勢の学会参加者たちに埋め尽くされていた.図書交換会という言葉からなんとなく物々交換を連想したが,それはみごとにはずされた.

会場入り口で配られていた「交換図書リスト」なるチラシを見ると,考古学関連の出版社や企業も20社ほど展示していたが,それ以外の100あまりのブースは全国各地の博物館あるいは考古学団体の出版物を展示販売する場所だった.これほどの規模で図書販売が行われている事例はほかの学会では目にしたことがない.

すれちがいにも難渋する混雑をかき分けて,図書交換会会場をひとまわり.遺跡調査報告書や図録の類がたくさん並んでいた.これほど多様な考古学関連の出版物が出されていることも驚きだが,ふだん目にしない書名が多すぎる.おそらくは,商業ベースに乗らない出版物なので,こういう学会がある機会に対面で売らないとサーキュレートされないのだろう.あとで学会員から聞いたところでは,確かにその通りで,図書交換会で売った代金を元手にして,次の出版資金にしている団体が少なくないらしい.

それにしても,こんなにたくさんの出版物をいったい誰が買うのかと思ったワタクシは浅はかの極みだった.図書交換会会場には宅急便の発送窓口が臨時に設けられていて,行列が伸びているではないか.ひとりひとりが大量の本を段ボール箱に詰め込んでは発送手続きをしている.この買い方は尋常ではない.宅急便窓口のうしろには台車が用意され,積み上げられた重い段ボール箱たちはそのまま裏手に駐車していた宅急便トラックにどんどん運び込まれていった.昨今の「電子出版」とか「キンドル」とかいうチャラチャラした言葉はこの業界ではきっと禁句なのだろう.ひたすら大量の “紙” が展示され,それらの “紙” は大量に買われていく.戦慄すべき光景だった.そして,こういう大規模な図書交換会を目撃できただけでも,日本考古学協会に来た甲斐があったというものだ.

あとで会員から聞いた話では,以前の図書交換会はもっと大規模で,各地の遺跡資料などローカルにしか出回らない出版物を入手するほとんど唯一の機会だったとのこと.研究発表会よりもむしろ図書交換会の方が重要とさえ位置づけられているらしい.それにしても,なぜ「図書販売会」ではなく「図書交換会」なのかというワタクシの素朴なギモンに対しては,お金が絡むことなので “婉曲表現” をしているとのオトナの回答が返ってきた.なぁるほど,税務署はコワいもんねぇ.

自分の知っている狭い世界の中からしかものを見ないのはしかたがないといえばそうなんだけど,たまにこういう「畑違い」の学会に顔を出してみると,学問とか研究の「場」がワタクシたちの想像を超える “変異” を有していることが実感できるだろう.