『Phylogenetic Systematics: Haeckel to Hennig』紹介

Olivier Rieppel

(2016年6月刊行,CRC Press [Series: Species and Systematics], Boca Raton, xxii+381 pp., ISBN:9781498754880 [hbk] → 目次版元ページ

先日届いた新刊本.すでにマルジナリアに書き込みつつ読み始めている.エルンスト・ヘッケルからヴィリ・ヘニックにいたるドイツ系統体系学の系譜をたどる.ゲーテシェリングに代表されるロマン主義自然哲学(romantische Naturphilosophie)は,19世紀の比較形態学(観念論形態学 idealistische Morphologie)を経て,20世紀に入ってもなお有機体論や全体論として生き続けた.このドイツ観念論の強固な伝統の中で,ヘッケルやヘニックらこの国の生物学者たちもまたその影響から免れることはできなかった.

本書はロゴス(論理)とゲシュタルト(観念)の対立を軸にして,ドイツの系統体系学が19世紀のヘッケルから20世紀のヘニックへと続く系譜の中で,観念論形態学とどのように戦ってきたかが描かれる.しかし,けっしてわかりやすい対立図式ではなく,微妙に立ち位置がずれたり入り混じったりする.ヘッケルにしても万物を機械論・一元論のもとに解明しようとしつつ,その一方ではゲーテ的な世界観も色濃く漂う.ヘニックもまた論理実証主義を踏まえた系統的体系の公理化(数理化)に傾倒しつつも,同時代のドイツのさまざまな哲学的思潮の影響を受けてきたと著者は言う.もちろん,ナチス時代の “völkisch” な時代精神の影も無視できない.

本書の著者はシカゴのフィールド・ミュージアムに所属する著名な古生物学者.もともとスイス出身で,英語とドイツ語の両方での執筆活動を続け,専門分野である爬虫類学だけでなく,生物学史・生物学哲学の論文も多数ある.筋金入りの pattern cladist なので,ワタクシ的には内容的にピンポイントで「アタリ」の本.