『What is Tanuki?』感想

佐伯緑
(2022年7月5日刊行,東京大学出版会,東京, vi+147+30 pp., 本体価格3,300円, ISBN:978-4-13-063379-6版元ページ

立川に来る前日に着便したのでさっそく車中読了.極真流空手の使い手である “緑のたぬき” なるヒト=タヌキが “たぬき愛” 全開でタヌキに迫る.対象生物との絶妙な距離感が楽しめる稀有の本.

著者 “緑のたぬき” は,あるときはヒトとして,あるときはタヌキとして物語る.こういう文体は他のネイチャー本では見たことがない.全体を貫く柱としては「個体の生物学」のようなので,本書に登場するタヌキたちには固有名詞(狸名)が付されている.一匹一匹の狸生を狸死を細かく追う.

本書『What is Tanuki?』はけっして厚い本ではないが,タヌキの生物学はもちろん民俗・伝説・怪談など文化的存在としての背景まで触れられている.文献リストが30ページもあるのは破格.ワタクシ的にはところどころに描かれているイラストがとても魅力的だった.

もちろん,人里に出没するタヌキたちは人間の生活に関わりをもつ.それは状況によって “駆除害獣” だったり “保全対象” だったりする.しかし,著者(緑のたぬき)の視線はかなりユニークで,これは実際に読んでいただくにかぎる.とくに,「巻末エッセイ」は必読.