『珍説愚説辞典』

J・C・カリエール&G・ベシュテル[高遠弘美訳]
(2003年9月26日刊行,国書刊行会,東京,750pp., ISBN:4336045211



よくぞここまで「珍説・愚説」を収集したものだと感心する.たとえば,1913年5月29日にパリで初演されたストラビンスキーのバレエ音楽春の祭典』に関してはこんな1項が立てられている(pp. 321-322)

  • 最初の小節から最後の小節まで,期待した音はなにひとつ聞こえず,決して聞こえるはずのない別の音しか響いてこないのである.[1913.6.3.]
  • おぞましいバレエ,『春の祭典(Le sacre du printemps)』というより,『春の殺戮』(Le massacre du printemps)を思い出す.人間の耳に対するあれほどの挑戦はかつてなかった.[1914.6.6.]

初演後まもないからこそこういうストレートな評が出るんでしょうね.総譜を見ると,第1部の終わり近くの〈賢者の行進〉がとてもわくわくするものがある.トロンボーンとチューバによる4拍子の主旋律のうしろで,大太鼓が3拍ごとにストロークし,次いで銅鑼がその3拍を2等分する裏拍を打ち,クライマックスではギロが大太鼓と銅鑼の掛け合いを4分割するリズムを刻むという念の入れよう.ぞくぞくする.よく引き合いに出される第2部終曲〈いけにえの踊り〉の変拍子パッセージ(5/18+2/8+1/8 etc.)は,いったん覚えてしまえば[きっと]たいしたことないと思う.それよりも拍子が混ざる方が演奏する方はくらくらする.