『飛行蜘蛛』

錦三郎

(2005年6月25日刊行, 笠間書院ISBN:4305702800).

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読了.梶井基次郎の作品に gossamer が出てくる,サイデンステッカー訳の『かげろう日記』のタイトルは『The Gossamer Years』だそうな.“陽炎”とは gossamer ではないかという説があるが,著者は懐疑的だ.古今東西の文学作品などを渉猟して,飛行蜘蛛の軌跡をたどる努力.

それよりも何よりも,クモ類の系統関係と「飛行性」を論じた箇所(pp. 86-87)に注目したい:




わたしは現在のクモの造網性,徘徊性,地中占座性のいずれもが,これまでの進化の途上に,一度は太陽の照る地上生活を行ない,持ち前の糸を利用して,空中分散を行ない,個体の維持と種族の繁殖をはかった,そういう時期をへたのではないだろうかと思っている.その時の習性が,現在のクモの習性となって残り,孵化後のバルーニングとなってあらわれるのであるとみたいのである.(p. 86)



こういう進化仮説をテストするための系統樹はすでにあるのかな?

本書の後半は,蜘蛛の配偶行動に関する観察記録もあるが,中心は,蜘蛛の民俗と伝承そして文学.Arachnida はギリシア神話の神にちなむ名前だったか.水上勉は蜘蛛へのオブセッションがことのほか強かったとのこと.古今東西の文学作品の「蜘蛛話」が登場する.