『Biological Principles: A Critical Study』

Joseph Henry Woodger

(1929年初版刊行, Routledge & Kegan Paul[International Library of Psychology, Philosophy and Scientific Method], London, xii+496 pp.)

AbeBooksから届いた本.初版は1929年で,今回入手したのは1948年に出た第2刷.蔵書印や図書番号が付されていないところを見ると,個人蔵書だったようで,図書館などの公的機関から流出したものではなさそう.半世紀以上も前の本だが,ハードカバー製本はまだ崩れていない.本書はウィーン留学から帰国した彼の処女作であり,学位を得たのもこの著作のおかげだったそうだ,それにしても500ページもある大作だとは思わなかった.

この本は古書価格がもともととっても高い本なのだが,版元の Routledge から 2000 年頃に一度リプリントされている.その新刊価格もほぼ40,000円だった.高すぎ.それを考えるとたまたま1/10の廉価で入手できたのは幸いだった.

本書はある種の「理論生物学」を目指していて,Russell & Whitehead の影響がすでに色濃いことは当然なのだが,彼の定位する目標とは「Introduction」の末尾に書かれている:



We require to devote more attention to what I have called ‘ principles of systematization ’ and this means that we must invoke the aid of logic and epistemology. [……] Biology has yet to discover the necessity for the virtue of patience. It is still in the metaphysical stage: too eager to press on to startling ‘ conclusions ’ rather than to devote more attention to the purification of its concepts and making more sure of its foundations. The accumulation of data, still less the erection of speculative theories, is not enough. (p. 84)

このアジェンダがそのまま継承されていったということなのだろう.何よりも本書全体が“ふつうの言葉”で書かれているところが「若書き」を感じさせる.同じ著者がほんの“8年後”に『The Axiomatic Method in Biology』(1937年刊行, Cambridge University Press → 目次)という「異星人語」で綴った本を出すとは想像もできない.

—— なお,本書を含むシリーズ〈International Library of Psychology, Philosophy and Scientific Method〉だが,付録の目録をざっと見ると,ピアジェマリノフスキー,カッシラー,ユクスキュル,ラッセルといった“ビッグネーム”たちの著作がずらりと並ぶ.ヴィトゲンシュタインの『論理哲学論考』の英訳版がほかならないこの叢書の1冊として出版されていたこと(1922年)を初めて知った.Webcatを見てみると,1920年代から30年代にかけて次々に出されたこの叢書には200冊ものエントリーがあり(重版含む),哲学・科学哲学を主として,生物学分野では心理学・人類学を含む理論派の著作が多いようだ.