『〈盗作〉の文学史:市場・メディア・著作権』

栗原裕一郎

(2008年6月30日刊行, 新曜社, 492 pp., 本体価格3,800円, ISBN:9784788511095版元ページ著者ブログ



【目次】
まえがき 11

序章 盗作前史 —— 偽版・代作・著作権 21

仮名垣魯文盗作事件/明治の版権(著作権)意識/新聞小説と文壇/「代作」という制度/自然主義の席捲と小栗風葉の代作/ゴシップにすぎなかった盗作問題/出版ジャーナリズムの急成長と盗作/久米正雄の盗作事件/岩藤雪夫の盗作事件/盗作事件はメディアの事件である

第1章 メディアの事件としての盗作疑惑 63

1. 「男根[ディック]の男根[メディア]」的事件 —— 倉橋由美子『暗い旅』 63

二人称の話者/論争本体にたどりつけない!/『パルタイ』論争/『暗い旅』論争の発端/拡散する論争/倉橋の反論/『心変わり』訳者・清水徹の総括

2. 都市伝説の真相 —— 庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』 92

薫くんが日比谷高生である理由/薫くん文体の衝撃/『赤頭巾ちゃん』=『ライ麦畑』伝説の由来/初稿「喪失」の文体と『赤頭巾ちゃん』の文体/模倣疑惑の真相

第2章 新人賞と盗作事件 125

1. 丸写しで新人賞をもらった男 —— 有城達二「殉教秘聞」 125

違いはたった三ヶ所/「受賞の言葉」までがパクリだった

2. 盗作というイメージの体現者 —— 西村みゆき「針のない時計」 132

読者からの電話で発覚/事態は一大センセーションへ/スキャンダルの理由/西村の消息は……

3. 小説に描かれた盗作事件 —— 小幡亮介「永遠に一日」 148

「盗作の証明」のモデル/剽窃を楽しむ芸術?/谷沢永一の批判の裏にあるもの

第3章 オリジナルという“データ” 163

1. 超訳という創作方法 —— 大薮晴彦「街が眠る時」『火制地帯』/三好徹『乾いた季節』 163

第一の事件「街が眠る時」/第二の事件『火制地帯』/東宝と黒澤プロが三好徹にかけた盗作嫌疑/大薮盗作事件の真相(?)

2. すべての文相はデータでしかない —— 山崎豊子「花宴」『不毛地帯』『大地の子』/中河与一『天の夕顔』/丹羽文雄親鸞の再発見」『蓮如』 188

山崎第一の事件「花宴」/『天の夕顔』盗作疑惑/日本文芸家協会退会へ/文芸家教会会長・丹羽文雄の「無断引用」事件/山崎第二の事件『不毛地帯』/暗躍する情報提供者/シベリア民主運動と瀬島龍三/山崎,朝日新聞社を告発/第三の事件『大地の子』/『大地の子』裁判は山崎の全面勝訴

第4章 

1. ノンフィクションという被害者の発見 —— 宮原昭夫『誰かが触った』 232

朝日新聞社の「借物小説」キャンペーン/文芸評論家・平野謙の判定/「小説アクチュアリティ説」と「散文芸術論」

2. 「作家のモラル」というニュース性 —— 綱淵謙錠「怯」 248

取材の実態と印章操作的報道/『私残記』という書物/引き写しに近いところも……

3. 歴史的事実をめぐる困難 —— 立松和平光の雨」 263

前代未聞の和解条件/対立する見解/深化しない議論

第5章 作品の自立と模倣の可能性 282

1. 『黒い雨』狂騒曲 —— 井伏鱒二『黒い雨』 282

「重松日記」の異本/豊田清史の『黒い雨』盗作説/論駁された『黒い雨』擁護論/相馬正一の『黒い雨』創作説/論争勃発/表面化した盗作疑惑/『重松日記』刊行と論争のゆくえ

2. 模倣が切りひらいた地平 —— 寺山修司「チェホフ祭」 310

寺山に短歌を詠ませた中城ふみ子/俳壇から出た模倣指摘/実は寛大だった歌壇の反応/寺山の「模倣」とアレンジ意識

第6章 異メディア間における盗作疑惑 333

1. マンガの二次制作 —— 鷺沢萌「川べりの道」 333

指摘の数々/盗作というよりも二次制作?

2. 翻案という難問 —— 山口玲子『女優貞奴』とNHK大河ドラマ『春の波涛』

女優貞奴をめぐる物語/書かれていなかった原作/NHK杉本苑子の「密約」/そして法廷へ/翻案権という難物/NHK弁護団のウルトラC/小森陽一の鑑定書/第一審判決/『春の波涛』裁判の意味

第7章 インターネットという新しい告発装置 374

1. メディアの変化に翻弄された「インターネットの女王」 —— 田口ランディ 374

二度の盗作報道/ネットの「噂」と『噂の真相』/こじれた水面下の交渉/「検証本」への反応

2. マスメディアから集合的知(痴)へ —— 篠原一と飛鳥部勝則 387

篠原一の盗作疑惑/篠原一事件への論評/飛鳥部勝則の盗作疑惑/報道後の経緯

第8章 その他の事件 410

1. 石原慎太郎の盗作疑惑四つ 410/2. 歌詞無断引用で告訴 —— 五味川純平『人間の条件』 414/3. 大原富枝『ひとつの青春』事件 415/4. 不思議にお咎めなしだった五味康祐の盗用事件 419/5. 『ジャン・ジュネ全集』の訳文に盗用 420/6. 著作権侵害刑事告訴された松本清張 421/7. 三十五年後に認めた(?)筒井康隆の盗作 424/8. 記録された些細な盗作事件 —— 北山想「金歯」 429/9. 二作目が書けずに —— 竹内正太郎「オランダ遠眼鏡」 430/10. 封印歌謡に隠された盗作 —— 唐十郎「愛の床屋」 432/11. 自殺未遂の原因は盗作だった —— 有馬頼義カストリ雑誌前期』 434/12. 丸写しだった児童文学 —— 那須田稔『文彦のふしぎな旅』 435/13. 「素材は一つ,ペンは二本」 —— 堀田善衛『19階日本横丁』事件 437/14. 科学的事実か? 表現か? —— 有吉佐和子『複合汚染』 439/15. 映画『宵待草』事件 441/16. 三島由紀夫からの盗用を謝罪したNHKドラマ『蒼い光芒』 442/17. 田辺聖子を写した歴史小説家 —— 大月博志『古代天皇の謎』 442/18. NHKドキュメンタリー『江差追分』事件 444/19. 芥川賞作品からの盗作が発覚 —— ヤングシナリオ大賞盗作事件 448/20. 発見されながら報道されなかった盗作疑惑 —— 神坂次郎「賭」「私刑」 451/21. 関川夏央二葉亭四迷の明治四十一年』の方法論 453/22. 平野啓一郎日蝕』の盗作疑惑 457/23. 「辻仁成なんか知るか」で終わった辻仁成の盗作疑惑 457/24. 『読売新聞』によるデマゴギー? —— 猪瀬直樹の盗作疑惑報道 460/25. 司馬遼太郎からの盗用二作 —— 池宮彰一郎 462/26. 盗作謝罪文で告訴された男 —— 車谷長吉「因業集」 463/27. 何が著作権に抵触したのか —— 津本陽事件 466/28. 映画『バルトの楽園』盗作疑惑 467/29. 電子ブックにコピペ小説 469/30. ベテラン作家が素人のエッセーを盗作 —— 小檜山博「電車で」 470



あとがき 472
盗作事件年表 [477-476]
事項索引 [481-478]
人名・書名・メディア索引 [492-482]