『生物多様性という名の革命』

デヴィッド・タカーチ著

[狩野秀之・新妻昭夫・牧野俊一・山下恵子訳/岸由二解説]

(2006年3月20日刊行,日経BP社,東京,433 pp.,本体価格3,400円,ISBN:4-8222-4486-5目次

【書評】※Copyright 2006 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

 

生物多様性〉研究を推進してきた数多くの著名研究者へのインタビューを通じて,「生物多様性」の今日的意味を探る.サイエンス・スタディーズに親近な著者らしく,変に“ポストモダン科学論”的な箇所があるのはまあご愛嬌として笑い飛ばすとして,〈生物多様性〉に関わる本質的な論議はとてもおもしろい本だ.原書が出たのはもう10年前のことだが,ここで取り上げられているテーマの多くは今でもその賞味期限を過ぎていないだろう.日本の“生物多様性”関係者(分野を問わず)ならびにその批判者は,この本をじっくり読んで問題点や論争点がどこにあるのかをしっかり汲み取るべきだろう.たとえ走りながらでも読める本だと思う.

 

長大な第4章「多様性の探究:サイエンススタディーズと環境史の出会い」は,とりわけ“ポストモダン”度が高い.わざとそう言っているのか,ほんとうにそう信じているのかをはっきり言わないのは,たとえそれが相対主義的(あるいは社会構築論的)科学論の学問的スタイルだとしても,単に読者を遠ざけるだけで生産的ではない.もちろん,生物多様性の推進者たちの「生の証言」がコンパイルされているという点では資料的価値が高い本だ.

 

だから,読む側としては,いちおう〈抗ポストモダン薬〉を事前に服用した上で(アラン・ソーカルでもジャン・ブリクモンでもジャック・ブーヴレスでも),タカーチ本を開くのが精神衛生上はきっと望ましいだろう.新妻さんも,訳者あとがきで「違和感が最後まで払拭できていないことを告白しておかねばならない」(p. 405)なんて上品なことを言ってないで,「こんなのはしょせんダメですね」と冷たく言い捨てるべきだった.

 

参考文献(“抗ポストモダン薬”として)−−
  1. アラン・ソーカル&ジャン・ブリクモン『「知」の欺瞞:ポストモダン思想における科学の濫用』(2000年5月24日,岩波書店ISBN:4-00-005678-6書評
  2. ジャック・ブーヴレス『アナロジーの罠:フランス現代思想批判』(2003年7月20日新書館ISBN:4-403-23096-2書評

 

三中信宏(5 April 2006)