屋名池誠
(2003年11月20日刊行,岩波書店[岩波新書・新赤版863],ISBN:4004308631)
縦書き・横書き・左書き・右書きという〈書字方向〉の系譜をたどった本.たいへんおもしろい.P.197に「書字スタイルの系統樹」が描かれている.もともと縦書きだったところに,どのように横書き(右書きあるいは左書き)という新しい書字スタイルが発生し,勢力を広げていったのかを豊富な史料を踏まえて論じた本.
『季刊・本とコンピュータ』(2004年春号)のインタビュー記事「日本語は横書きに向かうか」(pp.71-77)を読むと,書字方向の可能性を見極めたいという著者の考えは,古生物学で言う「理論形態学(theoretical morphology)」のそれに通じるものがあるように思う.〈形態〉としての書字をコントロールするいくつかのパラメータ(縦/横,左/右,漢字/かな etc.)を変化させることによって生じるスタイルの集合を見ようということか.
著者の屋名池さんには,かつて2004年の日本進化学会第6回大会の公募シンポジウム〈非生命体の進化理論2〉に招待して,「〈横書き登場〉― 日本語書式の由来と変遷について」という講演をしてもらったことがあった.