『科学者の本棚:『鉄腕アトム』から『ユークリッド原論』まで』

「科学」編集部(編)

(2011年9月27日刊行,岩波書店,東京, x+264 pp., 本体価格2,600円, ISBN:9784000052122版元ページ目次など追加情報

「本の本」は活字量もバカにならない.二段組みにびっしり組まれた本書は,岩波の雑誌「科学」誌上で2005年〜2010年の期間に毎月連載されたコラム〈心にのこる一冊〉を単行本化したものだ.一人数ページのエッセイが全64編集められている.最初は流し読みしていたのだが,気がついたら全部読み終わっていた.こういう読み方ができるときはシアワセだ.

全体を通し読みすると,自然科学はもとより,哲学・宗教学・音楽学・文学にいたるまで幅広い分野をカバーしているが,どこかで“サイエンス”とつながっていることがわかる.執筆者一人ひとりの経歴の中でもっとも印象に残った本を取り上げているので,自然に古い本の登場頻度が高くなる.本とのつながりをきっかけに広がる想い出話はどれも興味深く,かつての科学者がどのように育ってきたか,生きる場所としての科学者コミュニティがどのようであったかが垣間見える.

通読したかぎり,自然科学系では物理学・化学の割合が全体としては高いようで,生物学関連の記事は意外に少ないように感じた.『岩波生物学辞典(初版)』,『鼻行類』,『種の起原』,『ミミズと土』などが取り上げられている.神田左京『ホタル』は手にしたいな.ダーウィンの本の「注をしらみつぶしに調べてみたい」(p. 215)と語った新妻昭夫のように,すでに鬼籍に入った執筆者もいる.科学史に関係する記事によく遭遇した.なお,本書の末尾には各記事で取り上げられた本の書影が掲載されている.こういうリアルさはたいせつ.モノとしての本がそこにあることで,各エッセイが鮮やかに浮き上がる.

—— ちなみに,ワタクシも本書に寄稿しています:三中信宏「「本で学ぶ」ことを学ぶ: G. Nelson and N. Platnick, Systematics and Biogeography: Cladistics and Vicariance(生物体系学と生物地理学)」(pp. 29-32).元記事の掲載巻号は:科学,76(4): 438-439(2006.3).