『文化系統学への招待:文化の進化パターンを探る』響音(4)

中尾央・三中信宏(編著)

(2012年5月25日刊行,勁草書房, 東京, x+213+xi pp., 本体価格3,200円[税込価格3,360円], ISBN:9784326102167目次版元ページコンパニオン・サイト響音録

立秋を過ぎても連日の真夏日.これから一ヶ月の残暑がきびしいな.

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「文化系統学への招待」(2012年08月05日)
http://blog.livedoor.jp/oldcoinshark_fiddler/archives/51734248.html

「パターン vs. プロセス」に関する論議は,1970年代以降の pattern cladistics 論争における中心テーマだった.ワタクシの『生物系統学』の 3-6 節で詳述したとおり.個人的には,オブジェクト独立なパターン構造(チェイン,ツリー,ネットワーク)の上に,オブジェクト依存のプロセスモデルを乗せるという普遍体系学のヴィジョンを描いている.ただし,プロセスモデルにも階層があるので,descent with modification のような基本構造モデルはパターン構造の事前情報として関係してくるだろう.その意味では水面下でのパターンとプロセスの相互関係はオブジェクトごとにあり得る.ただし,基本構造モデルを通してのパターンとプロセスの関わりあいは,形質遷移状態モデルのような属性の変化記述モデルとは別ものではないだろうか.なんでもかんでも“確率化”したがるベイジアンなら,そういうモデルを全部とりこんで,MCMC をぐるぐる回せばいいということになるのかもしれない.それはベイズ確証理論の「世界観」の問題だからまた別の問題だろう.



系統推定の「構造モデル」をまず決めた上で,「状態遷移モデル」をあとから乗っけるという手順を念頭に置いている.系統発生の「構造モデル」は,多次元超立方体(ブール束)というネットワークが最も複雑で,次いで樹状下半束(ツリー),最も単純な全順序グラフがチェインになる.論議があるのは,系統推定をするための「必要最小限の因果モデル」をどこまで許容するかについてである.多くを仮定するとそれに依存した結論が導出されるので,プロセスに関する最小限(できればゼロ)を目指したのが1970年代の pattern cladistics だった.そのへんの論争は『生物系統学』に書いたとおり./最尤法やベイズ法を使うためには状態変化に関する確率モデルが不可欠だが,少なくとも1997年当時は,形態形質に関してそういうモデルの候補はほとんどなかった.形態測定学的データに関して言えば,連続変量モデルを前提とした系統推定は今ではできないわけではない./形質の重み付けの基本は「状態変化確率に逆比例」という原則が今でも通用すると思います.

以上,2012年8月13日午前9時時点