『評伝 今西錦司』

本田靖春

(2012年3月16日刊行,岩波書店岩波現代文庫・社会238],東京,iv+355 pp., ISBN:9784006032388版元ページ

読了.この伝記の力点は第二次世界大戦をはさむ時期に今西がどのようにして「人脈ネットワーク」を構築し,それを操作したかという点にある.とりわけ,登山と探検に焦点を絞り,戦前の中国の大興安嶺探検や西北研究所との関わり,戦後のヒマラヤ登山にまつわるエピソードなどが中心に据えられている.朝日文庫今西錦司『大興安嶺探検』が本棚のどこかにあったはず.晩年の「今西進化論」に関わる記述は比較的短いのがとてもよかった.本多勝一が学生の頃に書いた「今西錦司論(未刊)」が取り上げられているのが興味深い(第8章).今西錦司が「お前,寄せたらへん」言うたら,それでキマリかぁ……(うわぁ).

今西錦司の葬儀のおり,親族の挨拶はたった一言「昨日,火葬いたしましたが,ひざぼんさんの骨が眼を見張るほど大きかったことを,ご宝庫させていただきます」(p. 7)だったらしい.また,今西錦司西陣の実家では,日々の献立(「菜歴」)がのけぞるほど“洋風”メニューだったことにびっくり(pp. 11-12).カツレツ・ビーフシチュー・コロッケ・ハヤシライス etc. 日本に上陸した主要な洋食メニューが勢揃い.当時のビッグネームたちの実家は単純に財力があったのだ.もちろん,そういう今西に経済的援助をした澁澤敬三みたいなさらなる“大人”がいたわけだが.

個人的には,書かれた対象よりも,書いた著者にとても関心があった.この伝記を手にした理由もそこにある.