『迫りくる「息子介護」の時代:28人の現場から』

平山亮

(2014年2月20日刊行,光文社[光文社新書・682],東京,318 pp., 本体価格880円,ISBN:978-4-334-03785-7目次版元ページ

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「多体問題」の再燃

熊本滞在中に読了した.親の介護を含む「多体問題」については,これまでも繰り返しつぶやいてきた(→ twilog)ので,とてもタイムリーな新書だった.



まず驚かされるのは,本書のキーワードである「息子介護」ということばが「息子介護=親への虐待」というイメージを帯びていること.冒頭でわざわざ《注意! 介護・福祉の現場の方,研究者の方へ》という但し書きが付けられているほど.本書は,とかく “負のイメージ” をもって語られる「息子介護者」について,実際に「息子介護」をしている28人への取材を通して,社会心理学の立場から迫ろうとする.解決策が述べられているわけではない.事例の積み重ねが示す事実に目を向けようとする姿勢.



本書に登場する「息子介護者」が置かれている状況は実にさまざま. “パラメーター” が多すぎてどうしようもないという実感がする.むしろ,「息子介護」の状況を左右する要因が何かを丹念に掘り下げているのが本書の特長といえる.「息子介護」を取り巻く要因は,親子関係・きょうだい関係・親族関係はもとより,経済状況・職場の問題,さらには介護保険・ケアマネージメント・地域社会とのつながりなどが全部からみあってくる.ひとつひとつの実例はリアルなのだが,そこからの一般化は至難.



社会的に “可視化” されていない「息子介護」についてよく知らない読者が大半ではないかと推測する.しかし,第3章の「(3)「用意周到」な息子はまれである」を読めば,いつでもだれでも「息子介護」の当事者になり得る可能性がひしひしと伝わってくる.その節にはこう書かれている:「親の介護は “突然” やってくる.介護に関する意思はあっても,親の老いを認識していても,親が要介護状態になりつつあるという事実に直面するのは “突然” かもしれないのだ」(pp. 126-7)– まさにその通り.



本書は今後増えるにちがいない「息子介護」に付随するさまざまな問題群に対して,目に見える議論の盛り上がりを期待している.本書の一貫したメッセージは,ある日 “突然” やってくるかもしれない親の介護への(心の)準備が男女を問わず必要であるという点だ.



—— 誰もがいつかどこかで直面する親の介護をめぐって,関係者への丹念な取材と冷静な分析が冴える.読むべし.



三中信宏(2014年2月23日)