『In and Out of the Ivory Tower: The Autobiography of Richard B. Goldschmidt』

Richard B. Goldschmidt

(1960年刊行,University of Washington Press, Seattle, xiv+352 pp. → 目次

本書は「hopeful monster 説」の提唱で有名な遺伝学者 R. B. Goldschmidt (1878-1958)の自叙伝.Goldschmidt は1914年に初来日し,1924〜26年には東京帝国大学農学部で遺伝学を講じたので,日本との関わりは深い.ワタクシが入手したのはカリフォルニア San Fernando Valley State College(現 CSUN=California State University, Northridge)図書館の除籍本.昔懐かしパンチカードが巻頭にはさまっていた.これで借り出し記録を保存していたのだろうか.

彼の主たる研究テーマはマイマイガの性決定遺伝だったので,日本を含むアジア広域を採集して回った.滞在した地域の文化や風習についても詳しく記録している.どうやら Goldschmidt センセイは日本の中でもずいぶんディープな場所がお好きだったようで,「古式ゆかしい和風風呂」と銘打たれた写真も載っているのだが,センセイ,女風呂を盗撮してはいけませんよ.

もう一枚,吉原遊廓の花魁道中の光景を撮った写真があり,Goldschmidt はそのようすを事細かに書き残している.写真の中央には,吉原・稲本楼の二葉花魁がいて,両脇に禿を従えている. あるブログ〈続々・たそがれ日記〉の記事 ―「大正3年(1914)新吉原遊廓「花魁道中」絵葉書から」(2015年5月3日)および「大正3年、新吉原遊廓「花魁道中」絵葉書2枚」(2015年6月13日)― を拝見すると,まったく同じ背景の花魁絵葉書がほかにもある.それを考えると,二葉花魁のこの写真もおそらく絵葉書から転載されたものだろう.これらの写真は10月10日の日録に載せた.

まさか,秋の三連休の昼下がりに一世紀前の花魁の写真を見入ることになるとは予想していなかった.Goldschmidt 先生,グッジョブ!

[付記]その〈続々・たそがれ日記〉の三橋順子さんから「間違いなく大正3年(1914)4月に新吉原遊廓で行われた大正天皇御大典(即位礼)記念イベントの「花魁道中」の写真(絵葉書)です。二葉花魁は稲本楼が出した6人の花魁の内の1人です」とご教示いただいた:「遺伝学者 R. B. Goldschmidtの自叙伝に大正3年新吉原遊廓「花魁道中」の写真」(2015年10月12日).どうもありがとうございます.