『Neu-Japan: Reisebilder aus Formosa den Ryukyuinseln ・ Bonininseln ・ Korea und dem südmandschurischen Pachtgebiet』

Richard Goldschmidt

(1927年刊行,Verlag von Julius Springer, Berlin, VIII+303 S mit 215 Abbildungen und 6 Karten → 目次

遺伝学者リヒアルト・ゴルトシュミットは大正末期の1924〜26年に日本(東京帝国大学農学部)に滞在していた間に,当時の日本領だった台湾・琉球列島・小笠原諸島朝鮮半島そして南満州租借地まで旅行した.その時の紀行文と写真215枚をまとめたのが本書だ.

第一次世界大戦後の日本の新領土を記録した民俗・文化・人々のモノクロ写真はいずれも鮮明に撮られていて,とても90年前の光景とは思えない.その中にはのちの太平洋戦争で失われてしまったものも少なからずあるにちがいない.ゴルトシュミットといえば遺伝学者としての仕事しか思い浮かばなかったが,日本の旧領土をめぐるこういう旅行記・写真集を残していたとはまったく予想外だった.自叙伝の吉原遊郭の記述からもうかがえるが,センセイはどうやら好奇心旺盛だったようだ.

ゴルトシュミットの遺伝学の本はどこにでもあるだろうが,さすがにこの写真集は国内ではたった16館にしか所蔵されていない(→ CiNii Books).現物を手に取る機会がある読者は幸運だろう.なお,本書『Neu-Japan』のうち,琉球列島に関する章「Die Ryukyuinseln」(pp. 111-208)だけは,すでに日本語訳が出版されている:R・ゴールドシュミット[平良研一・中村哲勝訳]『大正時代の沖縄』(1981年3月27日刊行,琉球新報社,沖縄).しかし,ざっと見た感じでは,台湾の霧社や阿里山先住民族を訪ね歩いた冒頭章「Formosa」(pp. 5-110)など他の章も,歴史的にとても貴重な記録になっているように思われる.

最後に,造本について一言.現在の Springer-Verlag とはちがって,かつての Verlag von Julius Springer は美しくしかも堅牢な本造りをするのが身上だった.カバージャケットにくるまれた本体は,金箔押しの背文字,華やかな表紙柄,そして写真印刷に適したずっしり重い上質紙.いまの Springer-Verlag の漫画みたいなお馬さんのイラストが無個性に並ぶのとは大違い.一昨年その Springer-Verlag から本書『Neu-Japan』の復刻版が90年ぶりに出されたが(2013年10月復刻版刊行,Springer-Verlag, Berlin, ISBN:9783642986390 [pbk] → 版元ページeBook),ペーパーバックで9,000円という値段が付けられている.うーん,ちょっと話にならないなあ.