『写真でつづる アマミノクロウサギの暮らしぶり』読売新聞書評

勝廣光
(2019年3月1日刊行,南方新社,鹿児島, 108 pp., 本体価格1,800円, ISBN:9784861243929目次版元ページ

読売新聞大評出ました:三中信宏写真でつづる アマミノクロウサギの暮らしぶり…勝廣光著 南方新社 1800円」(2019年4月28日).



夜行性の生態 如実に

 琉球列島の奄美大島と徳之島にのみ分布する国の特別天然記念物アマミノクロウサギが本書の主役だ。山奥に棲み、もともと個体数が少なく、しかも夜行性であるために、この原始的なウサギの生態についてはこれまでほとんど知られてこなかった。本書の出版により、長年にわたってこのウサギを追い続けてきた著者が撮りためた貴重なカラー写真の数々を読者は存分に楽しむことができる。

 本書では、アマミノクロウサギのある夫婦に焦点を絞り、地面に掘った穴で生まれた双子の子育て、夜間の餌探し、縄張りを防衛したり、ハブなどの外敵と対峙したりする日々を写真でつづる。文字では言い表せない多くの情報がひとつひとつの生態写真には込められている。著者のプロの動物写真家としての腕前が冴える。

 ブナ科のイタジイのどんぐりを好んで食べるというアマミノクロウサギは、耳介が小さいなど他のウサギ類と形態的に大きく異なる。さらに、夜行性という独自の進化を遂げたために、鳴き声による音声コミュニケーションをしているという。深夜の照葉樹林で「ピシー、ピシー」と鳴き交わす情景は想像をかきたてる。

 アマミノクロウサギが暮らすこの島には他にも多くのかけがえのない動植物がいる。本書にはアマミトゲネズミやケナガネズミなど稀少なげっ歯類、オオストンオオアカゲラルリカケスなどの絶滅が危惧される固有鳥類、さらにはアマミエビネやグスクカンアオイなどの固有植物が撮られている。

 両親の庇護のもと、すくすくと育つ双子の子ウサギの姿はほほえましい。しかし、やがては巣立っていく彼らを取り巻く環境は人為的な環境破壊や交通事故のためけっして安全とはいえない。島外から持ちこまれた兇悪な外来捕食動物であるイタチやマングースやノネコの難を逃れて、この島でアマミノクロウサギがずっと生き続けていくことを願わずにはいられない。

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2019年4月28日掲載|2019年5月8日公開)