『海外で研究者になる:就活と仕事事情』読売新聞書評

増田直紀
(2019年6月25日刊行,中央公論新社中公新書・2549],東京, x+253 pp., 本体価格880円, ISBN:9784121025494目次版元ページ

読売新聞小評の鍵がはずれて公開された:三中信宏海外で研究者になる 増田直紀著」(2019年9月8日掲載|2019年9月17日公開)



 現在の日本では、政府が十分な資金を提供しないせいで、若手研究者が国内の大学や研究機関で安定した職を得ることがほんとうに難しくなってしまった。ポスドクの常勤職であっても任期が数年に限られている場合がほとんどだ。彼らが研究室主宰者(PI)として安定した任期なしの職位(テニュア・ポスト)をどのように確保できるかは日本の科学界の存続にも関わる悩ましい問題である。

 本書は、先が見えない日本ではなく、あえて海外に雄飛して研究活動を続けるための事例集だ。国情のちがいや海外で研究室を立ち上げる上でのポイントが、いま国外で活躍している日本人PIたちのインタビューを踏まえてまとめられている。彼らは、欧米はもちろん中国やシンガポールなどアジア、オーストラリアなど、世界に広がる。

 研究費の申請方法、給料の引き上げ交渉、授業や会議の進め方など内容はとても具体的だ。海外研究生活に伴う光と影が読み取れるので、ポスドクや大学院生はもちろん学部生にとっても大小さまざまな“心理的ハードル”を下げてくれる良書である。(中公新書、880円)

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2019年9月8日掲載|2019年9月17日公開)