『学術書を読む』読売新聞書評

鈴木哲也
(2020年10月10日刊行,京都大学学術出版会,京都, 138 pp., 本体価格1,500円, ISBN:978-4-8140-0301-3目次版元ページ

読売新聞大評が公開された:三中信宏外へと踏み出す読書論 —— 学術書を読む 鈴木哲也著 京都大学学術出版会 1500円」(2020年11月22日掲載|2020年11月30日公開).



外へと踏み出す読書論

 本紙読書委員としての評者の任期は残りわずかだ。書評は著者と読者をつなぐ“パイプ”だと評者はずっと考えてきた。ときには“畑違い”の専門的著作を書評する機会もあった。著者が精魂込めて著した本はいずれも意外な発見と読書の喜びを与えてくれた。学術書・専門書を手にとった者だけが味わえる“読書冒険”の魅力は何物にも代えがたい。

 本書は5年前に出た前著、鈴木哲也・高瀬桃子『学術書を書く』の姉妹本だ。学術書が居心地のよい狭い専門領域に閉じこもってばかりいては将来は開けない。学術書は「二回り、三回り外」の読者へ向けて書かれるべきだという前著のメッセージはとても力強い読後感を残した。本書はそのメッセージを受けて、学術書を読む側もまた既存の知識の枠組みを超えて外に踏み出す姿勢が求められていると説く。

 すらすらとすぐ読めてしまう本を“流動食”と名付けた評者を引用し、著者はいきすぎた“わかりやすさ”の落とし穴を警告する。世にあふれる流動食本は、読む意欲がなくても消化できる。しかし、本来の読書は知力をもって未知の領域へ積極的に攻めこむ行為ではないだろうか。たとえテーマや内容が硬派であったとしても、書く側と読む側がともにより広い視野と意欲をもって踏み出せば、学術書がもたらす知の世界はもっと豊かになるにちがいない。

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2020年11月22日掲載|2020年11月30日公開)

 本書前半の第I部「考える――学術書を読む意味」と第2部「選ぶ――専門外の専門書をどう選ぶか」では学術書・専門書を読む意義について論じ、歴史・科学史・文化史などジャンル別のブックガイドを提示する。とりわけ、最後の第3部「読む――学術書の読書から現代を考える」は示唆に富む。単なる読書論を越え、細切れの知識の断片ではなく、体系的な知識を重視する立場から、現代科学における研究者のライフスタイル、研究評価のあり方、学術出版の趨勢の問題点にまで論議は広がる。大学出版会を率いる著者ならではの視点が冴える。



狭い意味での “読書論” にとどまらない,専門知のあり方が論じられている.図書新聞に掲載される三浦衛さんの『学術書を読む』書評が出たら,かつての登壇者3人がみごとに勢揃いですな:〈築地本マルシェ〉大学出版部協会企画:三中信宏×三浦衛×鈴木哲也鼎談「学術書を読む ——「専門」を超えた知を育む」2018年2月18日(日)@ベルサール汐留.

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2020年11月22日掲載|2020年11月30日公開)