『アリストテレス 生物学の創造[上]』目次

アルマン・マリー・ルロワ[森夏樹訳]
(2019年9月17日刊行,みすず書房,東京, viii, pp. 1-291, 63, 本体価格3,800円, ISBN:9784622088349版元ページ

今あえてアリストテレス生物学! みすず書房,攻めてる攻めてる.


【目次】
エラトー書店にて 1
島 17
人智の及ぶところ 53
解剖 83
自然 109
イルカのいびき 139
道具 177
鳥の風 193
コウイカの霊魂 219
泡 259

参考文献リスト [52-63]
参考文献解題 [23-51]
用語集
 II 本書で言及された動物 [3-22]
 I 専門用語 [1-2]

『数論・論理・意味論 その原型と展開 —— 知の巨人たちの軌跡をたどる』目次

野本和幸
(2019年8月9日刊行,東京大学出版会,東京, xxii+705 pp., 本体価格14,800円, ISBN:9784130101356版元ページ

なにげに “必殺系” の700ページもの紙のカタマリ.ワタクシ的にはポーランド学派のタルスキが好きなんですけどね.


【目次】
まえがき――知の巨人たちの戦記物語 iii
凡例 xxi

序論 数論・論理・メタ数学の誕生と真理論・意味論の展開 1

第 I 部 論理主義の誕生と現代論理学の創始――デデキント,ブール-シュレーダーからフレーゲへ 37

第1章 デデキントの数論――論理主義の一つの出発点 39
第2章 ブール-シュレーダーの論理代数的論理主義 133
第3章 フレーゲの論理主義――「判断優位説」と「文脈原理」 149
第4章 ラッセルの論理主義と知識論抄 217

第 II 部 数学基礎論とメタ数学――ヒルベルトからゲーデルまで 227

第5章 ヒルベルト数学基礎論――メタ的形式主義への歩み 229
第6章 完全性前史――ポスト-ヒルベルト-ベルナイスとヒルベルトの問題提起 307
第7章 ゲーデルの完全性定理および不完全性定理への予示 327
第8章 不完全性定理の概要 347

第 III 部 真理・モデル・意味論の誕生と展開――タルスキの真理論とモデル理論 377

第9章 タルスキの真理定義――メタ理論の構築 379
第10章 内包的意味論の展開――カルナップ・チャーチ・モンタギュからクリプキ・カプランへ 517
第11章 直接指示,意味,信念 537
第12章 フレーゲ再考――意味・意義・真理 563

補論1 言語と哲学――言語的転回の射程 635
補論2 ことばと信念序説――デイヴィドソンとダメットを手引きに 654

あとがき 669

引用文献 673
事項索引 697
人名索引 703

『Die Kunst der Benennung』第7章読了

Michael Ohl
(2015年刊行, Matthes & Seitz, Berlin, 318 pp., ISBN:9783957570895 [hbk] → 目次版元ページ

続く第7章「 “一日一新種” (»Jeden Tag eine neue Art«)」(pp. 195-226)読了.生涯にわたって怒涛のように記載しまくり,新種を命名し続けた分類学者の列伝.やはり昆虫分類学者が抜きん出ているようで,「一万種超」クラスの大物が何人もいる.ガガンボ分類の大家 Charles P. Alexander は70年間に11,278種を記載命名したし,Francis Walker にいたってはなんと23,056種にのぼるさまざまな目の昆虫の新種記載をしたという.小蛾類の専門家 Edward Meyrick も14,199種を命名した.おそるべきスタミナと驚異的な集中力だ.昆虫分類学者,コワい…….

『独裁者のデザイン:ヒトラー、ムッソリーニ、スターリン、毛沢東の手法』目次

松田行正
(2019年9月4日刊行,平凡社,東京, 351 pp., 本体価格3,200円, ISBN: 978-4-582-62068-9 → 版元ページ

独裁者は “眼力” がタダモノではない.総統閣下はまあいいとして,おお,帰ってきたムッソリーニがぁ.


【目次】
はじめに 4
Chapter1 呪力のある視線 23
Chapter2 燃える視 線 67
Chapter3 拒否する視線 111
Chapter4 遠望する視線 155
Chapter5 反復する視線 205
Chapter6 記憶する視線 265
付録 ナチ・ポスターを描いたイラストレーターたち 325
おわりに 338
引用リスト [347-342]
参考文献 [349-347]

『生命の歴史は繰り返すのか?:進化の偶然と必然のナゾに実験で挑む』読売新聞書評

ジョナサン・B・ロソス[的場知之訳]
(2019年6月15日刊行,化学同人,京都, xvi+382 pp., 本体価格2,800円, ISBN:9784759820072目次版元ページ

読売新聞大評が公開された:三中信宏生命の歴史は繰り返すのか? ジョナサン・B・ロソス著 化学同人」(2019年9月15日掲載|2019年9月24日公開)



生物進化は実験できる

 本書の読後感は「生物進化ってこんなに実験できるんだ」という素朴な驚きである。もちろん、歴史としての進化は唯一的な個別事象の積み重ねである。この点ではたしかに進化学は歴史学である。しかし、進化を駆動する過程については実験プランをうまく立てることによって経験的に検証することができる。そのような進化実験はほとんど実行できないと考えられてきたが、その先入観はみごとに覆される。

 著者は、大西洋・バハマ島でのアノールトカゲやカリブ海トリニダード島でのグッピーをはじめさまざまな生物を題材とする野外実験で、進化的な変化は意外なほど急速に進行し、実験的に立証することができると結論する。みずから経験してきた研究史や野外調査につきものの冒険譚をまじえた文章は読者をぐいぐい引っ張っていく。

 わざわざ遠くまで行かなくても農業試験場や砂場やプールでも進化は観察できるという。さらに言えば、野外にかぎらず、進化は室内でも起こっている。大腸菌を用いた実験室内での長期進化実験は30年を超えて続行されている。前例のないこの実験から、生物進化においては「偶然と必然がせめぎ合う」というきわめて重要な論点が浮かび上がってくる。

 進化における「偶然VS必然」の対位法は本書全体を通じて途切れることなく響き続ける旋律だ。スティーヴン・ジェイ・グールドは名著『ワンダフル・ライフ』(早川書房)において進化のテープを“リプレイ”すればまったくちがった結末になるだろうと主張した。一方、グールドに反旗を翻したサイモン・コンウェイ=モリスは『カンブリア紀の怪物たち』(講談社)の中で、進化の選択肢は限られていて同じような結果が繰り返し生じている(「収斂」と呼ばれる)と反論した。前世紀末に勃発したこの大論争に対して本書がいかなる解答を用意するのか……。ぜひ手にとって確かめていただきたい。的場知之訳。

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2019年9月15日掲載|2019年9月24日公開)

『家畜化という進化:人間はいかに動物を変えたか』目次

リチャード・C・フランシス[西尾香苗訳]
(2019年9月30日刊行,白楊社,東京, 558 pp., 本体価格3,500円, ISBN:9784826902120版元ページ

分子系統樹がいたるところに.


【目次】
はじめに 9
第1章 キツネ 17
第2章 イヌ 37
第3章 ネコ 75
第4章 その他の捕食者 107
第5章 進化について考えてみよう 129
第6章 ブタ 143
第7章 ウシ 169
第8章 ヒツジとヤギ 195
第9章 トナカイ 223
第10章 ラクダ 249
第11章 ウマ 271
第12章 齧歯類 301
第13章 人間──Ⅰ 進化 329
第14章 人間──Ⅱ 社会性 357
第15章 人新世 381
エピローグ 407

付録 411

謝辞 447
訳者あとがき 449
註と参考文献 [550-454]
索引 [558-551]

『Die Kunst der Benennung』第6章読了

Michael Ohl
(2015年刊行, Matthes & Seitz, Berlin, 318 pp., ISBN:9783957570895 [hbk] → 目次版元ページ

一年以上のブランクが空き,英訳本まで出てしまったのに,続きを読んでいる.第6章「 “愛する妻にちなんでこのコガネムシ命名する” (»Ich benenne diesen Käfer nach meiner lieben Frau ...«)」読了.人名に基づく命名あれこれ.ディヴィッド・ボウイあり,アドルフ・ヒトラーあり,ビヨンセもあれば,シュワちゃんスピルバーグ監督も.ああ,Plathygobiopsis akihito も登場している.ラテン語の性別があやふやな事例もあったりとか.お硬いイメージがある「学名の本」もこういうに書かれていればとてもおもしろいのにねえ.

『自然は導く:人と世界の関係を変えるナチュラル・ナビゲーション』目次

ハロルド・ギャティ[岩崎晋也訳]
(2019年9月10日刊行,みすず書房,東京, 2 color plates + iv + 279 pp., 本体価格3,600円 → 版元ページ

自然物から自分の位置と方向を読み取る「ナチュラル・ナビゲーション」の古典.GPSなど影も形もない時代の1958年出版.


【目次】
はじめに 1
1 自然は導く 5
2 昔の人類はいかにして旅をしたか 20
3 第六感は存在するか 44
4 円を描いて歩く 51
5 まっすぐに歩く 60
6 耳を使う 70
7 嗅覚を使う 76
8 空への反射──動かない雲についての注記 81
9 風向き 88
10 太陽と風がもたらす効果 95
11 樹木や、その他の植物 101
12 蟻塚の道しるべ 121
13 砂漠で 129
14 極地で 137
15 丘と川 144
16 距離を推測する 148
17 都市で 153
18 スポーツとしてのオリエンテーリング 161
19 波とうねり 166
20 海の色 172
21 海鳥の生態 178
22 月が告げること 220
23 太陽から方角を知る 227
24 星から方角を知る 231
25 星から時間を知る 242

太陽方位角の簡易表 247
謝辞 271

ナビゲーターたちのプリンス──訳者あとがきにかえて 273

『驚異と怪異:想像界の生きものたち』書評

国立民族学博物館(監修)・山中由里子(編)(2019年8月29日刊行,河出書房新社,東京, 239 pp., 本体価格2,700円, ISBN:9784309227818目次版元ページ

読了.古今東西のさまざまな “妖しいモノ” たちが所狭しと陳列されていて,この本がまさに驚異の部屋としての「ヴンダーカマー」を構成している.展示物の図版を眺めるのはもちろん楽しい体験だが,寄稿されているエッセイもおもしろい.コラム17:三尾稔「半人半獣のヴィシュヌ化身像」では,ヒンドゥー教最高神のひとりであるヴィシュヌと魔王ヒラニヤカシプの闘いについてこう書かれている:

「無敵の体となったことを確信したヒラニヤカシプは抗う人びとや神々を打ち倒し,遂に傲慢にも彼の世すべてを支配しようとする.まさにそのとき,ヴィシュヌ神はナラシンハ,つまり人でも神でも獣でもあるものとして姿をあらわし,昼と夜の境目である黄昏どきに,建物のなかと外の境目となるヒラニヤカシプの宮殿の入口で,空中でも地面でもない自らの膝の上で,武器を使わず素手で切り裂いてヒラニヤカシプを殺してしまう」(p. 127)

「ヒラニヤカシプは世界のすべての事物や時空間を分類し,そのどれにも負けない存在になることによって世界を支配しようとした.しかし,どんな分類や区別にも,それになじむことのない境目や曖昧なものがつきまとう.ヴィシュヌ神はその境界に宿り,慢心する魔王をあざ笑うかのように彼を討伐したのである」(p. 127)

光と影の境目である “罔両” はオニが憑いて妖怪化すれば “魍魎” となる.日本にかぎらずインドでも “罔両” に潜むヴィシュヌ神が “魍魎” だったことは意外や意外の感があるが,深く納得できる.万物を分けることができるとみなす分類学にとって “分類不能” な存在はいつでも災厄のもとだからだ.

フェルナンド・ペソア著(高橋都彦訳)『不安の書』(2007年1月31日刊行,新思索社ISBN:4783511969)には,「物事を分類し,分類することだけが科学だと心得ている科学的な人は一般に,分類できることが無限にあり,したがって分類しきれないということを知らない」と書かれている.

また,ジョルジュ・ペレック阪上脩訳]『考える/分類する〈日常生活の社会学』(2000年2月1日刊行,法政大学出版局[りぶらりあ選書],東京,vi+143pp.,本体価格1,800円,ISBN:4588022024目次)には,分類をめぐる警句が記されている:

「一つの規則によって,全世界を分類するというのは,じつに人をひきつけることであり,一つの全般的法則が現象全体を規定することになる.北半球と南半球,五大陸,男性と女性,動物と植物,単数と複数,右と左,四季,五感,六母音,七日,十二ヶ月,二十六文字.残念ながら,そんな分類は,うまくいかない.かつてうまくいったためしがないし,今後もうまくいかないだろう.そうはいっても,なおこれからも人びとは,これごれの動物が奇数の指の数や中空の角をもっているということで,分類するということを長く続けるだろう」(p. 120)

ヴンダーカマーには分類をめぐる人間の本性が見え隠れする.分類できる安心と分類できない不安は表裏一体であり,「分類のめまい」(ペレック, op. cit., p. 125)は分類者たる人間を悩ませ続ける.