『黒衣の面目:編集の現場から』

柏原成光

(1997年6月25日刊行,風濤社ISBN:4892191558



筑摩書房から発行されていた[いる]雑誌『人間として』,『文芸展望』,そして『ちくま』の“編集後記”だけを集めた本.類書はほとんど皆無だという.「埋め草」と言われようが「詰め草」であろうが,“編集後記”の書き手(編集者)にとっては,本文以上に心を砕く仕事だっただろうと推測される.それは黒衣がオモテに顔を出す一瞬だから.

ぼく自身,小学校のPTA広報や職場の組合広報で編集担当だったときは,長い“編集後記”を毎度のように書いていた.ま,広報担当のヒソカな愉しみみたいなもので,ことさらに小さなフォントで書き連ねた.単発も,連載もあった.何回か続けて書いていると確実に「固定読者」がついてくれるので,それがまた励みになったりして,さらに書く意欲が亢進するという[悪]循環になる.こうなればしめたもので,あとは自力(惰性ではない)で進むことができる.

ぼくの経験から言ってまちがいないことだが,“編集後記”でうまく読者を当てることができれば,その印刷物全体の「読まれ方」もよい方向に上向いていく.大事なことは“編集後記”にまず書くという〈逆転〉すら起こりえる.同時に,その「裏」もまた正しい.ヘタな“編集後記”をつけると,その印刷物そのものが読まれなくなる危険性がある.だから,惰性で“編集後記”を書くのはやめた方がいい.黒衣が“編集後記”でヘマをすると,本務であるはずの印刷物全体に傷がつくからだ.

—— 紙の印刷物だけでなく,オンライン文書であっても,よく書けた“編集後記”には印象に残るものが多い.「黒衣の面目」はデジタル出版時代にもなお通用する行動規範なのかもしれない.