田村義也
(1996年3月25日刊行, 朝日新聞社, ISBN:4022567856)
石神井書林から届いた.ほんの10年前の本なのに,すでに絶版で,古書店にもほとんど出ていないようだ.新刊の田村義也『ゆの字ものがたり』(2007年3月10日刊行,新宿書房, ISBN:9784880083650→版元ページ)から遡って,この本にたどりついた.
“ゆの字”がどちらかといえばエッセイ集であるのに対し,“のの字”は装幀そのものに傾斜した本.横長(函は縦長だが)の本書ももちろん著者自らの装幀だ.本文中の載っている書影をぱらぱらとブラウズしてみると,僕の私蔵本の中にはこの著者の装幀した本がたくさんあるようだ.
“のの字”と“ゆの字”にリストアップされている装幀本一覧を見ると,「昆虫本」が何冊も入っていることに気づく.そのほとんどは築地書館とサイエンティスト社であることがわかる.築地書館の田村義也装幀本でぼくの書架に入っているのは,今井彰『蝶の民俗学』(1978年7月10日刊行,築地書館,ISBNなし)と今井彰『鎌倉蝶』(1983年7月15日刊行,築地書館,ISBNなし)の民俗蝶学の2冊だ(1992年に同じ築地書館から三部作の最後を飾る『地獄蝶・極楽蝶』が出版されたが,うっかり買い損ねてしまった).また,蝶学者・磐瀬太郎の遺著論文集:磐瀬太郎『日本蝶命名小史:磐瀬太郎集I』(1984年4月10日刊行,築地書館,ISBNなし)と磐瀬太郎『アマチュアの蝶学:磐瀬太郎集II』(1984年4月10日刊行,築地書館,ISBNなし)も田村義也の手になる装幀だ.
いずれの本も,「装丁で最も肝要なのは著者名と書名がはっきり見えることである」(“のの字”の「まえがき」より)という基本姿勢そのままに,意匠としての蝶が大きくあしらわれていて,とてもよく目立つ.
—— 田村義也は,こういう昆虫本だけでなく,安岡章太郎・本田勝一・藤田紘一郎らの数多くの本の装幀も手がけているのだが,その基本姿勢がいつも貫かれていることは一目でわかる.
“のの字”と“ゆの字”で日が暮れる.