『Handbuch der biologischen Arbeitsmethoden』

Emil Abderhalden (Hrsg.)

(1929-31+年刊行,Urban & Schwarzenberg,Berlin und Wien)



この「Handbuch」は全体としていったいどれほどの規模の叢書だったのだろうか.この叢書全体は,大きく「領域(Abteilung)」に大別され,各「領域」は「部(Teil)」に細分される.さらに,それぞれの「部」はさらに細かく「分冊(Heft)」として出版されたようだ.形式的には「部」が1冊の「巻(Band)」に相当し,ページ番号や図表番号は「部」によって通し番号となっている.「分冊」番号は各「部」の中で通しになっているが,叢書全体としては「Lieferung番号」という通し番号が別に付けられている.また,事項索引は「部」が完結したときの最終「分冊」に含まれると書かれている.

手元にある Walter Zimmermann が「Arbeitsweise der botanischen Phylogenetik und anderer Gruppierungswissenschaften」(pp. 941-1053)を寄稿している分冊(Abteilung IX: Methoden zur Erforschung der Leistungen des tierischen Organismus, Teil 3: Methoden der Vererbungsforschung, Heft 6 [Lieferung 356])の後半は,動物遺伝学の章:Walther Schultz「Methoden zur Darstellung versteckter mendelnder Erbanlagen durch ihre Aktivierung ohne Kreuzung」(pp. 1055-1113)だ.この二つの章を合わせると170ページあまりの分量になる.

この分冊は「第3部(Teil 3)」の6冊目なので,第3部全体では千ページを越える(実際ページは「部」ごとに通し番号になっているのでこの点はまちがいない).さらに,この「第3部」が属する「第9領域(Abteilung IX)」は「第1〜8部」から構成されているので,単純計算で計八千ページとなる.さらにさらに,Handbuch全体は「第I〜XII領域」に分割されている.「領域」によって「部」の数ちがいはあるものの,巻末の全体構成表から集計すると「部」の総数は70超だ.

以上から,この Handbuch 全体は(既刊分のみでも)七万ページを越える膨大な叢書ということになる.手元にある200ページほどの厚さの分冊が350冊以上ずらっと並ぶイメージだ.規模はぐっと小さいが,1970年代に出た共立出版の「生態学講座(黄緑本)」みたいなものを想像するとよいのだろう.表紙には「執筆者700名超の〜」と書かれているから,他の分冊も2名の執筆者がそれぞれ100ページほどの分量を書いているのだろう.

この Handbuch を統括した「Emil Abderhalden」なる人物はぜんぜん知らなかったのだが,戦前のドイツではかなり有名で有力な生化学者だったそうだ.しかし,一般的にはあまりいい意味で“有名・有力”だったわけではなく,今風にいえば実験データの“捏造疑惑”をもたれたり,第2次世界大戦中はユダヤ系研究者をパージしたりという前歴があったという.彼の伝記記事を見ると,この「Handbuch」については,「Volume 1-107(1929-1930)」と記されている.この「Volume」が「Lieferung」のことなのか,それとも「Teil」の総数なのかは判然としない.おそらく後者ではないかと思うが.

また,Handbuch全巻が首尾よく完結したのかどうかも不明である.少なくとも1931年の時点で完結していないことだけは確かだ.なお,各分冊の販売価格は一律に「3ライヒスマルク」と記されている.現在でいうとどれくらいの価格なのだろうか.