『Handbuch der biologischen Arbeitsmethoden, Abteilung IX: Methoden zur Erforschung der Leistungen des tierischen Organismus, Teil 3: Methoden der Vererbungsforschung, Heft 6 (Lieferung 356)』

Emil Abderhalden (Hrsg.)

(1931年5月刊行,Urban & Schwarzenberg,Berlin und Wien)

今年はじめに注文してあったもう1冊の古書が Darmstadt の Antiquariat Dr. Götzhaber から届いた.タイトルをそれらしく訳すと,『生物学研究法ハンドブック・第9分野:動物研究の方法,第3部:遺伝研究の方法,第6分冊(通号第356号)』ということになるだろう.

本書は,いまの日本にもよくある“講座本”的な性格の叢書の1冊らしいので,巻号を羅列するだけだとまったく味気なく見えてしまう.しかも,80年近く前の本なので,表紙と本体はもちろん剥離し,紙はすでに黄変してぼろぼろ,綴じもなかば壊れていて,かがり糸一本だけでつながっているところもある.“本”というよりは,むしろ“紙束”に近い.用紙も製本も崩壊寸前だ.落丁もなくドイツから届いたのがフシギなほど.

しかし,ぼくにとってとくにこの号が関係するのは,本号前半100ページあまりを占めている植物系統学者 Walter Zimmermann の有名な論文「Arbeitsweise der botanischen Phylogenetik und anderer Gruppierungswissenschaften」(pp. 941-1053)が載っているからだ.Willi Hennig 以前の“分岐学的方法”の先駆とされるこの論文のコピーは,『生物系統学』を書きつつあった10年以上前にすで入手していたのだが,国内にほとんど所蔵されていないこともあって,「原本」がどういうものかはこれまで確認する機会がまったくなかった.だから今回初めて手にすることができたのは幸いだった.

Zimmermann の系統学方法論については,『生物系統学』の第3.3節(pp. 99-106)で論じているが,そこでは言及しなかったもうひとつの興味深い論点は,彼のいう「分類諸科学(Gruppierungswissenschaften)」についてだ.系統学と併置するかたちで,彼は「分類」を目的とする科学分野が複数あることに言及している.生物学に限定すれば,人為分類や類型分類がそれに含まれるのだろうが,冒頭に述べられている体系化(Ordnung)の一般論としてはもう少し広い射程を有していたようだ.植物学者である Zimmermann が動物学の分冊に執筆している理由もきっとそのあたりにあるのだろう.

—— そんなこんなの“崩壊本”はとりあえず頑丈な封筒に入れてしまっておくことにしよう.パーツが“散逸”しないように.