『京都ぎらい』

井上章一

(2015年9月30日刊行,朝日新聞出版[朝日新書・531],東京, 221 pp., ISBN:9784022736314版元ページ

ホンマにいやらしい書き手やわぁ.まずは『京都ぎらい』第1章「洛外を生きる」(pp. 13-61).文中にも登場する杉本秀太郎の有名なエッセイ集『洛中生息』をしばき倒す勢いのイケズ炸裂がすばらしい.著者の言うことは全部丸ごと理解できてしまう.もういやらしすぎて笑いが止まらへん.いかに「洛中」の人々が「よそさん」(=洛中以外のすべて)を心のなかで蔑んでいるかが,ねちねちと語られている.そのいやらしさがすばらしすぎる快著.しかし,読み手を選びまくる本であることはまちがいない.

洛中から遠く離れた洛外の嵯峨に生まれ,やはり洛外の南の果ての宇治に住む著者は,「洛中」への屈折した “黒い心” を吐いている.そのいやらしさがとても心地よい.こんなけ書かれたら,洛中出身の梅棹忠夫杉本秀太郎もけちょんけちょんやな.まずは第1章を読んだ上で,「ホンマやホンマや,この通りや」と実感できたらスジはよろし.

奥付の著者紹介には「京都府生まれ」と記されている.ひつこすぎるくらいひつこいいやらしさに,ワタクシは心から共感する.ようここまで書いてくれやはりましたな.ひつこいいやらしさだけ堪能したいなら,第1章と最後のあとがきだけ読むのんが正しいと思う.真ん中の諸章はまぁ何でもええやんいうことで.あー,イケズ濃度がものすご高まってきたわぁ.

ワタクシは自分の本には意図的に「京都市生まれ」と書くようにしているが,今度から「京都市伏見区生まれ,宇治市に育つ(洛中在住経験なし)」と書いたろか.あー,またいやらしいことを思いついてしもた.伝染ったんちゃうやろか.