『日本のイネ品種考:木簡からDNAまで』読売新聞書評

佐藤洋一郎(編)
(2019年4月30日刊行,臨川書店,京都, 2 color plates + 260 pp., 本体価格4,500円, ISBN:9784653044147目次版元ページ

読売新聞小評が公開された:三中信宏日本のイネ品種考…佐藤洋一郎編



 日本人にとって「イネ」は日々の食生活の根幹となる作物である。本書は日本におけるさまざまなイネの品種がどのような歴史をたどってきたのかを考察する論集だ。

 イネが根から吸収した珪酸が石化した微細な「プラント・オパール」から日本を含む東アジアの稲作の歴史を復元するミクロ生物学的研究、千年以上も前の木簡に記されたイネの品種名を手がかりに祖先品種を特定する古文書学からのアプローチ、遺伝資源としてのイネ品種の多様性を解明する育種学の視点、そして現在広く作付けされているイネ品種の祖先を探索する遺伝学からの探究など、さまざまな視点からイネ品種の歴史が論じられている。

コシヒカリ」などよく目にする銘柄以外にも、色も形も香りも異なる多くのイネ品種が、飯米・酒米飼料米などさまざまな用途のために全国各地で栽培されてきた。最後の対談では、これらさまざまな品種のイネが日本の食文化の歴史と深く関わっていることが語られている。今まさに起動しようとしている和食文化学への序奏と位置づけられる。

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2019年7月21日掲載|2019年7月29日公開)