『進化のからくり:現代のダーウィンたちの物語』読売新聞書評

千葉聡
(2020年2月20日刊行,講談社ブルーバックス・B2125],東京, 262 pp., 本体価格1,000円, ISBN:978-4-06-518721-0目次版元ページ

読売新聞の小評が公開されました:三中信宏進化のからくり 千葉聡著」(2020年5月17日掲載|2020年5月25日公開).



 カタツムリの“恋”を唄ってきた吟遊詩人はときに大冒険に挑む。小笠原の南硫黄島調査隊をレポートしたある報道番組で、この人跡未踏の絶壁の島によじ登りひたすら固有種の陸貝を追い求める著者の勇姿を見たことがある。

 本書は、著者が自らの経歴を振り返るなかで、国内外の気鋭の進化学者たちとのさまざまな接点や研究交流をつづったエッセイ集だ。めくるめく生物多様性のパターンとそれを生み出した進化のプロセスを解明し続けてきた著者は、何よりも探究することの楽しさを軽やかに語る。

 評者は著者とほぼ同世代なので、エピソードのいくつかはよくわかる。ガラパゴス諸島の海べりのオープンテラスや母島にそびえる尾根の岩場から進化学研究の魅力を説く著者は心底この分野に惚れ込んでいるのだろう。

 危険の絶えないフィールドワークから実験室内での精密なゲノム情報解析まで、進化研究の最前線をわかりやすく伝える好著だ。本書を手にした読者の中から次なる世代の“さらに若いダーウィン”が生まれることを期待したい。

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2020年5月17日掲載|2020年5月25日公開)