『青狐の島:世界の果てをめざしたベーリングと史上最大の科学探検隊』感想

ティーブン・R・バウン[小林政子訳]
(2020年1月24日刊行,国書刊行会,東京, 291 pp., 本体価格3,200円, ISBN:978-4-336-06386-1目次版元ページ

さて,本書の主人公っていったい誰だろうか? 歴史と地名に名を残したヴィトゥス・ベーリング? そうではない? 確かに,18世紀前半にサンクトペテルブルクの威光のもとに莫大な資金と膨大な人力を投入して北太平洋探検隊を編成したのはベーリングの功績かもしれない.しかし,探検踏査中はベーリングはほとんど病床に臥せっていたみたいで,本文中でも影がどんどん薄くなっていく.ベーリングに代わって存在感をしだいに増していくのは,第二次カムチャツカ探検に同行した博物学者・医者のゲオルク・シュテラー —— 絶滅したステラーカイギュウの発見者.本書の後半ではこのシュテラーがベーリング亡き後の探検隊のロシア生還に大きな役割を果たすことになる.主役級の大活躍.さらにいえば,本書全体を通じて暗躍する “闇の主役” がいる.それは「壊血病」だ.船上の探検隊員の命を奪った元凶は壊血病に罹ったこと.シュテラーは博物学者として壊血病に効くフレッシュな薬草あるいは肉の摂取を隊員たちにアドバイスしたとのこと.シュテラーと壊血病の一騎打ち本かも.