『おいしい京都学:料理屋文化の歴史地理』読了

加藤政洋・河角直美
(2022年10月30日刊行,ミネルヴァ書房,京都, xiv+230+ii pp., 本体価格2,500円, ISBN:978-4-623-09460-8目次版元ページ

第1章「京に名物「いもぼう」あり」.八坂さんの〈平野家〉の系譜を詳細にたどり,九州の海老芋と北海道の棒鱈が京都で出会った背景を探る.

第2章「内陸都市の海川魚料理」は鱧・鯖・鮎・鼈などの食材をあつかった料理店の話.ワタクシはつくばにはない「鱧の照り焼き」が大好物.残念なことに,「ところが現在,今熊野にあるハモ料理の『うお市』をのぞいて,海川魚料理を看板とする店は京都市内にみられない.戦後,京都料理の近代的なジャンルである『海川魚料理』は,少なくとも看板としては消滅してしまったようなのだ」(p. 95)と書かれている.その〈うお市〉も閉業してしまったらしい.また鯖寿司だけではなく鱧寿司もまた名物だったと(p. 71).

第3章「江戸か関西か」は鰻の話.関東風の鰻の蒲焼きが京都に入ってきた経緯.根津須賀町にあった〈神田川〉がその発祥.

第4章「とり鍋の近代」読了.博多の旧・柳町から京都の旧・二条新地に店を出した水たき〈新三浦〉の遊郭つながりエピソードはおもしろい.また,博多では「水炊き」は “みずたき” と読むが,京都では “みずだき” になるというちがいも指摘されている(pp. 163-164).それは名前だけではない.

第5章「洋食は花街とともに」と終章「料理の聖地から」読了. “廓” の “延長空間” としての “色町洋食” という表現に強く惹かれる(p. 190).「色町洋食」という言葉については:古川緑波ロッパ食談 完全版』(2014年9月20日刊行,河出書房新社河出文庫・ふ9-1],東京,276 pp., ISBN:978-4-309-41315-0版元ページ)所収の「色町洋食」(pp. 242-247)を参照のこと.

—— 『おいしい京都学』はイメージと食欲が大きく膨らむ好著.京都にやって来るあらゆる食の系譜はいつの間にか “京都化” されているという終章での指摘には「 “ゲニウス・ロキ” おそるべし」とつぶやくしかない.