『歴史人口学で見た日本』

速水融

(2001年10月20日刊行,文春新書200,ISBN:4166602004



[続]

第4章「虫眼鏡で見た近世 — ミクロ史料からのアプローチ」を読む.70ページあまり.この章は,著者の本領(と熱意)が十分に発揮されていて,当時の“宗門改帳”を手がかりに江戸時代の社会を人口学的に再構築していく.とりわけ,なぜ日本人が宗教的な背景をもたずに勤労に勤しめたのかという謎を解読する過程で,西欧型の〈産業革命〉と対置する〈勤労革命〉という概念を提出するあたりはとてもおもしろい.著者は昔も今も日本人は「ひじょうに激しく働いた」(p. 99)と言う.この表現,とてもインパクトがある.単に「よく働いた」ということではなく,際限なく働くことが「美徳」とみなされるという社会が当時すでにできあがっていたというのだ.

本章後半では,農村と都市の間の人の動きを人口学的に考察している.この部分もまた興味がわく.農村部でつぶれた小作層がはじき出されてどんどん都市部に流れ込んでいき,農村の空きニッチは地主層から落ちていった分家が埋めるという農村部での階層間の流れがあった.一方で,農村部から都市部に流入していった人口は,著しく高い都市での死亡率のせいで,どんどん「消費」されていったという.当時の日本では,農村部と都市部で“生存曲線”そのものが異なっていたらしい.

人口の静態と動態の考察を通して,ここまでのシナリオがつくり上げられるというのは印象的だ.

残りの章も読了.計80ページほど.第5章「明治以降の『人口』を読む」は,明治時代の人口統計学の研究史みたいな内容.続く第6章「歴史人口学の『今』と『これから』」は,歴史人口学の将来的な研究ヴィジョンを論じている.近刊でいくつか出版物が出るようなことが書かれている.※もう出ているのもあるはず.