『大学のエスノグラフィティ』

船曵建夫

(2005年4月20日刊行,有斐閣ISBN:4641076987



あっさり読了.文化人類学者の調査フィールドのひとつとして,「大学」の「日常」の記載文を淡々と書き連ねているという読後感あり.もちろん当事者なんだけど,“観察者”でもあるということ:




私が文化人類学者であり,かつ,自分自身,属している世界を観察する性癖が昔からあり,大学における人々の生態に以前よりかなり強い関心を持って観察していました.(p. 67)



第1章「ゼミの風景から」はおもしろい.ぼくは駒場にいた頃もっとジミめな「全学ゼミ」を取っていたので,こういう起伏ある経験はなかったですね.ほー,小熊英二さん,船曵ゼミにいきなり登場か.第2章「大学教授の一日と半生」と第3章「大学の快楽と憂鬱」は,バクロ的ではあるものの,意外にもあっさりと書き過ぎているのでは?(推測ですが) 最後の第4章「大学人の二足のわらじ」は,なんだか“向こうの世界”に逝きつつある風に感じられてしまう.

この本は,おなじ〈コマバ〉を舞台とする,ほぼ同時期に出たもう1冊の本,石浦章一東大教授の通信簿:「授業評価」で見えてきた東京大学』と読み合わせるとおもしろいと思う.同一の「場」を眺めているはずなのに,著者のスタンスの基本的なちがいが,文面から受ける印象の大きなちがいとなって増幅されているから.

—— “観察場所”としての〈コマバ〉を題材として次々に本が書けるというのはある意味すごいことなのかも.大学に関する「一般論」を読み取りたい読者には不満が残るかもしれない.しかし,少なくともぼくにとっては,あくまでもローカルな〈コマバ〉での「民俗・風習・芸能」の調査報告書として楽しませてもらった.

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