『飛行蜘蛛』

錦三郎(著)/錦仁(解説)

(2005年6月25日刊行,笠間書院ISBN:4305702800



1972年に丸の内出版から出た初版の復刻.オンライン書店の新刊としてアナウンスされていたのでさっそく買おうと思っていたところ,すばやく出版社から献本していただいた.ありがとうございます.Folk arachnology としてとても珍しく貴重な本だと感じる.

蜘蛛が糸を吐いて空を飛ぶという現象は,日本では〈雪迎え〉,外国では〈gossamer〉と呼ばれて昔から知られていた.著者は,自らこの現象を観察しただけでなく,国内外の文学作品や資料をも渉猟した上で,蜘蛛をめぐる民俗・伝説・寓意を集成する.

分断生物地理学(vicariance biogeography)の初期の論文のひとつに,クモ学者 Norman I. Platnick による「Drifting spiders or continents?: Vicariance biogeography of the spider subfamily Laroniinae (Aranae: Gnaphosidae)」(Systematic Zoology, 25: 101-109, 1976)がある.飛行するクモ類の歴史生物地理学を論じた論文だ.クモ類の系統発生の過程で「空中飛行」という行動はいったいいつどのようにして進化してきたのだろう.




【目次】

◇雪迎え(クモの空中移動) 3

 神秘な現象「雪迎え」 3
 「雪迎え」への研究 5
 「雪迎え」の正体 8
 「雪迎え」の聞込みと調査 10
 空に飛びたつクモ 15
  「観察ノート」から(昭和二七〜三二年) 15
  飛行グモの種名 28
  ふたたび「観察ノート」から 30
 観察からわかったこと 40
 日本各地のgossamer 46
 gossamerに似た現象 49
 ヨーロッパのgossamer 53
  俗信がまつわる名称
  gossamerとは何か —— 岡田要之助「遊糸彙聞」の考証から 54
 外国でのgossamerの観察と研究 57
  アリストテレス 57
  ミシュレからファーブルへ 60
  ダーウィンの観察 65
  ソ連のバビエ・レト 66
  ポーランドのバビエ・ラート 67
  コムストックとガーチ 70
  エリック・ダッフィ 72
 クモの空中移動についての考察 —— クモはなぜ空に飛びたつのか 81

◇文学作品の中のgossamer 89

 文学作品における遊糸・かげろう 89
  中国の詩の中の遊糸 89
  日本の漢詩の中の遊糸 94
  仏典のなかの陽炎(炎)と遊糸 95
  平安時代の文学作品における「かげろふ」 97
  平安時代の文学作品における「遊ぶ糸」 106
  鎌倉時代以後の「かげろふ」「遊ぶ糸」 112
 イギリス・アメリカの文学作品のなかのgossamer 118
 ドイツ・フランスのの文学作品のなかのgossamer 122
 ソ連のの文学作品のなかのgossamer 125
 日本のの文学作品のなかのgossamer 126

◇クモの世界と人間の世界と 129

 自然な姿のクモ 129
  銅鐸に描かれたクモ 129
  「ささがねのくものおこなひ」 133
  平安時代漢詩によまれたクモ 136
 妖怪・変化・魔性のクモ 138
  土蜘蛛草紙絵巻 138
  あしたか蜘蛛へんげの事 146
  闇のなかに光るクモの眼 149
  蛛道人 151
  蜘蛛恐怖譚 153
 瑞祥としてのクモ 157
 神話,文学作品のなかのクモの種々相 159
 クモとエロス 170
 クモと音楽・絵画 177
 クモを媒体として描かれる人間の内面性 182
 クモとわたし 185


あとがき 189
復刻版『飛行蜘蛛』解説(錦仁) 193
錦三郎略歴 200