『ブリューゲルの「子供の遊戯」:遊びの図像学』

森洋子

(1989年2月25日刊行,未來社,ISBN:4624710525



1枚の絵をめぐって語られる,詳細にわたる図像学的分析.遊戯絵を単に「教訓的寓意」という視点からだけではなく,民俗文化学的という視点からもういちど読み解こうという姿勢が印象的だ.第1章「ブリューゲルの「子供の遊戯」,その作品成立の背景」と各論に当たる第2章「「子供の遊戯」の図像学」に進む.16世紀に描かれたブリューゲルの〈子供の遊戯〉に,人生訓話的寓意を読み取ろうという主張は,後の17世紀的解釈の過剰延長であるという著者の考えはよく納得できる.ブリューゲルは,〈バベルの塔〉で当時の建築土木技術の細部にわたる記述をエンサイクロペディア的に描いたのと同じく,〈子供の遊戯〉において当時広まっていた遊びを蒐集し記載した民俗学的コレクターだったというのが著者の考えの中核である.それにしても,豚の足の骨のお手玉や膀胱の浮き袋などという遊びがあったとはね.