『裝釘考』

西野嘉章

(2000年4月15日刊行,玄風舎,ISBN:4250200256



【書評】

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本の「かたち」はこんなにさまざまだったのか

明治以降の書物の装丁の変遷を論じた本書は,それ自体がたいへん凝った「つくり」になっている.あえて上質紙を使っていない点,本文の組み方,豊富なカラー図版など,日頃接している「本」とはまったく異なる質感が味わえる.装丁のキーワードひとつひとつについて,それに関連する本を取り上げるという形式で,数ページの読み切り型のエッセイが連続する.この形式はたいへん読みやすく,おびただしい数の書物が小気味良く捌かれている.

欲を言えば,カラー図版に示された本が,本文のどこで解説されているのかの参照づけがほしいところだが,そういう安直な「効率」を口にしていたのでは本書の真の価値を理解したことにはならないのかもしれない.本文と図版とは関連し合いながらも別個の存在として読むのもまた愉しみの一つだろう.おそらくは,一度だけさっと通読するのではなく,進み,戻り,立ち止まりながら,読者が繰り返しページをめくることを見越してつくられた本なのかとつい深読みしてしまった.

明治以降の日本の装丁は,和書・洋書の混在の中で,次々にあたらしい形式を創造していった.本書は,この装丁史という限定されたテーマを論じた本なのだが,そこに盛り込まれた数々のエピソードはもっと幅広い.今和次郎とともに「考現学」を生みだした吉田謙吉が装丁家として活躍していたとは意外だった.もうひとつ,戦前に出されていたプロレタリア文学書の装丁の何と斬新なことか.

価格を考えれば,明らかに一般向けの本ではない.しかし,本書に出会えたことは私にとっては幸せだ.(なお,紀田順一郎氏は本書の詳細なオンライン書評を書いている.平凡社『デジタル月刊百科』2000年11月号掲載の「近代日本の装釘文化史:例のない通史」を見られたい.)

三中信宏(8 May 2001)