『中国・江南:日本人の知らない秘密の街 幻影の村34』

中国古鎮遊編集部(編)

(2006年5月5日刊行,ダイヤモンド社地球の歩き方Books], ISBN:4478079536



ゆるゆると読了.中国・江南地方(上海から杭州・蘇州にかけてのエリア)に広がる水郷地帯のあちこちに点在する古鎮(昔からある集落)をまわって歩いた記録.湖中の離れ小島だったり,深山の懐に抱かれたりして,ほとんど“隠れ里”のような村が残っている.もちろんそういう古鎮の歴史は「千年」だったり「二千年」だったりするわけで,これじゃあ太刀打ちできないなあ.中国人レポーターがまた素朴で,行く先々にすんなりなじんでいて,読者の肩の力がふっと抜けていく.

観光産業で栄えていたり,あるいは時代に取り残されていたりと,鎮によってその現状には大きなばらつきがあるらしい.しかし,それらに共通しているのは,水郷と古鎮を切り結ぶ結節点として古橋がある点だ.津軽・黒石にある“こみせ”のような「廊棚」が水郷沿いに延々と続くようすは見物だ.こういう本を少しずつ旅していると,漢詩の世界や科挙の時代がそのまま「いま」にもちこまれている錯覚をふと覚える.

先月からこの本をベッドサイドに置いてときどき寝読みしてきたのだが,日本の現実世界とは地理的にも心理的にも遠く離れた現実世界を読み歩くのは心地よい安眠を誘うものがある.9月に初めて訪ねた上海の日本的な近しい社会に隣接してこういう Altstadt が広がっているという意外性と歴史性がいまの中国がもつスケール効果かもしれない.