『理工系&バイオ系 失敗しない大学院進学ガイド:偏差値にだまされない大学院選び』

NPO法人サイエンス・コミュニケーション日本評論社編集部(編著)

(2006年11月20日刊行,日本評論社ISBN:4535784140



【書評】

※Copyright 2006 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved


するすると読了.この手の本は“高速読書”に向いている.ぼくらが大学院にいた頃とは様変わりしている情勢を知ることができたのは幸いだった.おそらく,これからの大学院生の「キャリア」のつくり方も,その前に「キャリア」観そのものもさらに変わっていくのだろう.本書には,大学院に進学した後のさまざまな人生の「分岐」(“ツリーモデル”という表現を知った)の実例がいくつも挙げられている.しかし,身近に見聞きしたかぎられた経験だけでは,全体を見失う危険がいつもある.ひょっとしたらもっとたくさんの事例(というか可能性)が他にもあるのかもしれない(本書のサポートページ:http://scicom.jp/grad-book/ が補ってくれるだろう).

われわれの世代が20年前に実際に体験した1980年代の「オーバードクター問題」は,当事者にしてみればいつまでも続く「暗闇」のように感じられたのではないだろうか.しかし,今にして思えば,その「暗黒の時代」は意外に短かく10年あまりで終焉した(当時の好況な景気という追い風もあったのだろう).振り返ってみれば,ほんの短期間のできごとだったようにも思える.

そう考えると,本書の“賞味期限”は予想以上に短いかもしれない.紙として世に出た時点ですでに情報は古くなり始めているから.それでも,これからの大学院生にとってさまざまな可能性と道が開けているのだ(あるいは積極的に拓いていくのだ)という自覚を促した点で,さらにいえば今から20年後にきっと帯びるはずの記録性という点で,本書の出版は意義があっただろうとぼくは考える.

いまの大学院生やこれからの大学院生はもちろん本書を手に取るだろう.しかし,その上の世代,あるいははるかに上の世代であっても,さまざまな思いをもって本書を手にしたいと思う潜在的読者は少なくないにちがいない.

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三中信宏(6 December 2006)