『歳月の鉛』

四方田犬彦

(2009年5月20日刊行,工作舎,東京,342 pp.,本体価格2,400円,ISBN:9784875024194目次版元ページ

自分が日々の「日録」を書き記してきたこともあり,他者がものした「日記」の類には関心がある.もちろん,「日記・日録」にはいろいろなスタイルがあり,一方ではシンプルに日々の出来事を書き綴ったものもあれば,一種のエッセイ集の体裁をとるものもある.それは活字として出版される場合でも,ウェブ日記やブログとして公開される場合でも共通している日記・日録のスタイルの変異幅である.

本書の著者はさまざまな評論・執筆活動をしているそうだが,彼の専門分野での活動にはぼくはほとんど関心がない(その方面の著書もいまだに手に取ったことがない).むしろ,彼の前著:四方田犬彦月島物語ふたたび』(2007年1月20日刊行,工作舎ISBN:9784875023999目次書評版元ページ)を読んで以来,「時代記録者」としての彼の活動に関心をもっていた.著者が描く同時代的風景の「焦点」から少しはずれた「背景」を動くものに興味があったということだ.

今回出版された「ノオト」は,著者が1972年に入学して東大駒場キャンパスに通いはじめてからいったん本郷キャンパスに移り1976年から再び駒場の大学院に戻ったのち,韓国に赴任する直前の1978年までに記されたものだという.著者はぼくよりも5歳年上の世代に属しているので,彼の見た同時代的光景とその記憶はぼくのそれよりもきっちり5年の「時差(年齢差)」を伴っている.それでも,著者が修士の院生として駒場に帰ってきたその年は,ぼくが駒場に入学した年なので,本書の第7章以降の後半部に描かれている駒場キャンパスのようすは,おそらくぼくが体験してきたそれと共通する要素が少なくないにちがいない.

本書に先立つ著者の高校生から予備校生時代のこと(1968年〜1971年)は:四方田犬彦ハイスクール1968』(2004年2月刊行,新潮社,ISBN:4103671041)に描かれているそうだが,この本はまだ手にしていない.