『古書の来歴』

ジェラルディン・ブルックス[森嶋マリ訳]

(2010年1月20日刊行,武田ランダムハウスジャパン,東京,519 pp., ISBN:9784270005620版元ページ

本書の主役として時代と国を超えて活躍する写本『サラエボ・ハガダーSarajevo Haggadah)』は実物を見てみたい気がする.物語そのものはフィクションだが,一冊の“トークン”としての古書がどのような経歴をたどって15世紀から21世紀までの年月を生き抜いたのかは,写本の系譜として読むとたいへん興味深い.とくに,本文テキスト以外のアイテム(羊皮紙の種類,留め金の銀細工,彩色挿絵の二次的な挿入,パルナシウスの翅,塩の結晶,ワインの染み,猫の毛 etc.)が,ストーリー構成上,とても重要な役割を演じている点がおもしろい.本書で“時空サンプリング”された年は,1480年(セビリア)・1492年(タラゴナ)・1609年(ヴェネチア)・1894年(ウィーン)・1940年(サラエボ)・1996年(サラエボ/ボストン/ロンドン)・2002年(エルサレム/グヌメレン/アーネムランド)だ.世界史年表が手元にあった方がいいかも.