『逃避めし』

吉田戦車

(2011年7月20日刊行, イースト・プレス, 東京, 167 pp., 本体価格1,390円, ISBN:9784781606019版元ページ

丸善・多摩センター店を徘徊していたら,この本に呼び止められて,レジにお連れした.なんたって,そのタイトルが.もとは〈ほぼ日刊イトイ新聞〉に連載されていたとのこと.自分のためだけに,自分ひとりの厨房にこもってつくり,たったひとりで食べるめし.ハマりそうでやばすぎる.著者は「好きな時間にテキトーな料理を作って腹を満たす,という逃避めし」(p. 164)と書いている.自分でちゃんと料理ができることは,もちろんパワフルな生命力を感じさせるが,その一方でそこはかとなく哀愁も漂う(誰しも思い当たるだろう).

もちろん,逃避めしは「シメキリを忘れさせて」(p. 149)くれることもあるにちがいない(ワタクシも忘れたい……).ワタクシも締切直前に厨房に入り込んで「味噌煮込まないうどん」をつくりたいな.「塩ラッキョウのカレーライス添え」ってどっちが主役やねん.「仕事田楽」,すぐ食べたい.「ちくわの穴確認弁当」、形而上学的ですなあ.「味噌納豆、伏兵添え」と「落胆ちらし寿司」はぜひ作らないと! etc....


椎名誠のかつての名著『全日本食えばわかる図鑑』(1985年3月15日刊行,小学館,東京,ISBN:4093593019椎名誠・旅する文学館)あるいは水上勉のルーツでもある『土を喰う日々:わが精進十二ヶ月』(1978年12月17日刊行,文化出版局,269 pp. → 感想)を髣髴とさせるこの本,ページをめくるたびにカラー写真で登場するウマそうでアヤシい逃避めしの数々は突然終わりを迎える.自分の厨房がなくなってしまったとき,著者は「逃避めし」からも逃避したからだ.ユーモアとペーソスの調味料とともに味わうべし.

—— 要するに,伝染ったんです。