『類似と思考[改訂版]』

鈴木宏
(2020年3月10日刊行,筑摩書房ちくま学芸文庫・ス-23-1],東京, 300 pp., 本体価格1,200円, ISBN:978-4-480-09969-3版元ページ

四半世紀ぶりの増補改訂版.


【目次】
はじめに 9
第1章 ルールに基づく思考と文脈依存性 15
第2章 類似の諸相 51
第3章 類似を思考へ拡張するために 77
第4章 類推とはなにか 113
第5章 類推の認知科学的な研究へ向けて 161
第6章 準抽象化に基づく類推 199
第7章 類推のこれまで、そしてこれから
付録 準抽象化理論と他の理論 263
参考文献 [300-289]

『もうダメかも:死ぬ確率の統計学』目次

マイケル・ブラストランド,デイヴィッド・シュピーゲルハルター[松井信彦訳]
(2020年4月10日刊行,みすず書房,東京, vi+366+27 pp., 本体価格3,600円, ISBN:978-4-622-08888-2版元ページ

データと直感をまたぐリスク認知の本.近年まれに見るキャッチーな書名と真っ赤なカバー.もうダメかも.


【目次】
はじめに 1
1 人生の始まり 15
2 乳児期 25
3 暴力 39
4 平穏無事 50
5 事故 65
6 予防接種 79
7 偶然の一致 90
8 セックス 102
9 薬物 117
10 大きなリスク 133
11 出産 150
12 ギャンブル 161
13 平均的なリスク 174
14 偶然 182
15 交通機関 197
16 エクストリームスポーツ 218
17 ライフスタイル 228
18 安全衛生 243
19 放射線 255
20 天空 266
21 失業 281
22 犯罪 292
23 手術 308
24 検診 323
25 老後のお金 333
26 人生の終わり 342
27 審判の日 353

 

謝辞 365

 

原注 [5-27]
索引 [1-4]

『オーケストラ:知りたかったことのすべて』読売新聞書評

クリスチャン・メルラン[藤本優子・山田浩之訳]
(2020年2月17日刊行,みすず書房,東京, vi+541+55 pp., 本体価格6,000円, ISBN:978-4-622-08877-6目次版元ページ

読売新聞の大評が公開された:三中信宏トラブルと奇跡の宝庫 —— オーケストラ 知りたかったことのすべて クリスチャン・メルラン著」(2020年4月19日掲載|2020年4月27日公開).欧米の有名オーケストラの歴史と内情に通じた著者が描くオーケストラという “超生物(スーパーオーガニズム)” .その生きぬく姿は,ときにおかしく,ときに悲しい.そしてときに奇跡を生む.指揮者とパートトップ(ソリスト)そしてその他大勢の団員(テュッティスト)の総体的底力の根源は何か.



トラブルと奇跡の宝庫

 かつて評者が大学オーケストラの打楽器奏者だったとき、笑うに笑えぬ“演奏事故”に何度も遭遇した。しょせん大人数のアマチュア楽団員によるパフォーマンスだから悲喜劇はつきもの。楽団員や合唱団員が何百人いようとも、気合を入れた大太鼓や銅鑼の“交響的一撃”をはずしてしまったら一巻の終わりだ。

 欧米の名だたる管弦楽団の歴史と事情に通じた著者は、プロのオーケストラでさえいろいろな意味で完璧ではないというエピソードの数々を600ページにも及ぶ本書にぎゅっと詰め込んだ。来日公演の本番中に振りまちがえてしまった指揮者が「今はどのあたりかな」と眼の前のヴィオラ奏者にそっと尋ねたら「ここは日本ですよ、先生」と即答されたという。それ、掛け合い漫才ですか。

 どのオーケストラも、コンサートマスターを筆頭として各楽器パートの第一奏者“ソリスト”が全体の音づくりを先導する。しかし、ソリストだけがオーケストラの構成員ではない。その他大勢のオーケストラ団員すなわち“テュッティスト”たちにも人生行路の浮き沈みがある。

「オーケストラはトラブルの宝庫であるとともに、奇跡の宝庫でもある」という著者の言葉は誇張ではないが、想像を超える生存競争はたじろぐばかりだ。オーケストラの団員ポストをめぐる熾烈な争奪戦、新米の団員が受ける厳しい試練、指揮者とオーケストラ団員の蜜月と仲違い、数知れないパワハラやセクハラ事件など、一般社会の縮図のような濃密な光景がオーケストラという狭い世界の中で繰り広げられる。

 長い歴史をもつオーケストラほど独自のサウンドが醸成され、たとえ団員が入れ変わってもその音響的伝統は長年にわたって聴衆を魅了する。文化的実体としてのオーケストラはひとつの大きな“群体生物”あるいは“超生物”かもしれない。この生き物には昨今のコロナ禍をしぶとく生き抜いてほしい。藤本優子、山田浩之訳。

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2020年4月19日掲載|2020年4月27日公開)



本書の新聞書評はすでにいくつか見かけた.たとえば,東京新聞書評:茂木大輔「音楽家の集合体」舞台裏に迫る」(2020年3月29日)はプロオケ出身の観点から本書を読み解いている.また,朝日新聞書評:西崎文子「「オーケストラ」 個性が奏でるこの夢心地の瞬間」(2020年3月21日)もまた弦楽器経験者らしい精緻な読み方だと思う.

「新型コロナ 読書対談(上・下)」読売新聞

  1. 読売新聞「新型コロナ 読書対談<上> 進化生物学者 三中信宏さん ×政治学者 苅部直さん」(2020年4月12日)
  2. 読売新聞「新型コロナ 読書対談<下> 進化生物学者 三中信宏さん ×政治学者 苅部直さん」(2020年4月19日)

読書委員による新型コロナウィルス読書案内.対談者がふたりともマスク姿で撮られるとは前代未聞なり.ワタクシがこの対談(前編)で取り上げた一冊目は,パンデミック本の古典:リチャード・プレストン[高見浩訳]『ホット・ゾーン(上・下)』(1994年,飛鳥新社).全世界に蔓延したエボラ出血熱との息詰まる攻防戦は,パンデミックが繰り返し人間社会に襲来したエピソードのひとつ.二冊目は緊急重版された:アルフレッド・W・クロスビー[西村秀一訳]『史上最悪のインフルエンザ:忘れられたパンデミック』(2004年1月16日刊行,みすず書房,東京, 420 + lv pp., 本体価格3,800円, ISBN:4-622-07081-2目次版元ページ[新装版]).ちょうど百年前に大流行した “スペイン風邪” がアメリカ各地にどのような被害をもたらしたかを論じた歴史書.そして三冊目は先月末まで pdf 版がフリーダウンロードできた:内務省衛生局編『流行性感冒:「スペイン風邪」大流行の記録』(2008年9月10日刊行,平凡社東洋文庫・778],東京, 454 pp., ISBN:978-4-582-80778-3版元ページ).パンデミックスペイン風邪” の日本への上陸とその後をたどった記録.冒頭の概論がすばらしい.

後編ではさすがにマスク姿の写真ではなかった.読書委員によるこういう “時事問題対談” は読売では初めての試みとのことだ.ワタクシが後編で挙げた3冊の筆頭:ローリー・ギャレット[山内一也監訳|野中浩一・大西正夫訳]『カミング・プレイグ:迫りくる病原体の恐怖(上・下)』(2000年11月16日刊行,河出書房新社,東京,上巻:486 pp.|下巻:462+xxii pp., 本体価格:各2,400円, ISBN:上巻4-309-25130-7|下巻4-309-25131-5)※新たな病原体が流行したとき,人間社会の反応には世界共通のパターンがあると著者は言う(下巻,p. 221).その共通パターンとは,最初は「否定」すなわち現実から目を背ける段階,続いて「恐怖」すなわち社会パニック,そして最後は「抑圧」すなわち罹患者への差別と迫害である.今回の新型コロナウイルスにもみごとに当てはまっている.—— 河出書房新社さん,『カミング・プレイグ』の重版よろしくね.続く2冊目:ジャレド・ダイアモンド[倉骨彰訳]『銃・病原菌・鉄:一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎(上・下)』(2000年10月2日刊行,草思社,東京,上巻 317 pp.|下巻 332+xvii pp., 本体価格:各1,900円, ISBN:上巻 4-7942-1005-1|下巻 4-7942-1006-X).第11章「家畜がくれた死の贈り物」では,家畜由来の病原菌では免疫力のない地域の人間は劣勢にまわると指摘する.人間の移動は病原体の移動でもある.最後の3冊目:福田眞人結核の文化史:近代日本における病のイメージ』(1995年2月15日刊行,名古屋大学出版会,名古屋,iv+398+31 pp.,ISBN:4-8158-0246-7版元ページ)は,結核菌が日本文化に与えた影響を論じる.不治の肺病をあえて “ロマン化” する日本文化は,社会の中に浸透する病原菌と人間とのもうひとつの付き合い方だった.

おもしろいことに,これらのパンデミック本はいずれも初版が出版されたのちいったん品切れとなるものの,新たなパンデミックが発生するたびに重版・増刷されている.流行病に対する人間社会固有の “集団的健忘症” の傾向がこんなところにも現れているようだ.

『オーデュボンの鳥:『アメリカの鳥類』セレクション』

ジョン・ジェームズ・オーデュボン
(2020年4月15日刊行,新評論,東京, 210 pp., 本体価格2,000円, ISBN:978-4-7948-1138-7版元ページ

1827〜38年に出版された巨大彩色図鑑『アメリカの鳥類』の全435図版から150葉をセレクトした本.ジョン・グールドの鳥類図譜は実物を見たことがあるが,オーデュボンのは見たことないなあ.それにしても,なぜ翻訳者の名前が書かれていない?