「新型コロナ 読書対談(上・下)」読売新聞

  1. 読売新聞「新型コロナ 読書対談<上> 進化生物学者 三中信宏さん ×政治学者 苅部直さん」(2020年4月12日)
  2. 読売新聞「新型コロナ 読書対談<下> 進化生物学者 三中信宏さん ×政治学者 苅部直さん」(2020年4月19日)

読書委員による新型コロナウィルス読書案内.対談者がふたりともマスク姿で撮られるとは前代未聞なり.ワタクシがこの対談(前編)で取り上げた一冊目は,パンデミック本の古典:リチャード・プレストン[高見浩訳]『ホット・ゾーン(上・下)』(1994年,飛鳥新社).全世界に蔓延したエボラ出血熱との息詰まる攻防戦は,パンデミックが繰り返し人間社会に襲来したエピソードのひとつ.二冊目は緊急重版された:アルフレッド・W・クロスビー[西村秀一訳]『史上最悪のインフルエンザ:忘れられたパンデミック』(2004年1月16日刊行,みすず書房,東京, 420 + lv pp., 本体価格3,800円, ISBN:4-622-07081-2目次版元ページ[新装版]).ちょうど百年前に大流行した “スペイン風邪” がアメリカ各地にどのような被害をもたらしたかを論じた歴史書.そして三冊目は先月末まで pdf 版がフリーダウンロードできた:内務省衛生局編『流行性感冒:「スペイン風邪」大流行の記録』(2008年9月10日刊行,平凡社東洋文庫・778],東京, 454 pp., ISBN:978-4-582-80778-3版元ページ).パンデミックスペイン風邪” の日本への上陸とその後をたどった記録.冒頭の概論がすばらしい.

後編ではさすがにマスク姿の写真ではなかった.読書委員によるこういう “時事問題対談” は読売では初めての試みとのことだ.ワタクシが後編で挙げた3冊の筆頭:ローリー・ギャレット[山内一也監訳|野中浩一・大西正夫訳]『カミング・プレイグ:迫りくる病原体の恐怖(上・下)』(2000年11月16日刊行,河出書房新社,東京,上巻:486 pp.|下巻:462+xxii pp., 本体価格:各2,400円, ISBN:上巻4-309-25130-7|下巻4-309-25131-5)※新たな病原体が流行したとき,人間社会の反応には世界共通のパターンがあると著者は言う(下巻,p. 221).その共通パターンとは,最初は「否定」すなわち現実から目を背ける段階,続いて「恐怖」すなわち社会パニック,そして最後は「抑圧」すなわち罹患者への差別と迫害である.今回の新型コロナウイルスにもみごとに当てはまっている.—— 河出書房新社さん,『カミング・プレイグ』の重版よろしくね.続く2冊目:ジャレド・ダイアモンド[倉骨彰訳]『銃・病原菌・鉄:一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎(上・下)』(2000年10月2日刊行,草思社,東京,上巻 317 pp.|下巻 332+xvii pp., 本体価格:各1,900円, ISBN:上巻 4-7942-1005-1|下巻 4-7942-1006-X).第11章「家畜がくれた死の贈り物」では,家畜由来の病原菌では免疫力のない地域の人間は劣勢にまわると指摘する.人間の移動は病原体の移動でもある.最後の3冊目:福田眞人結核の文化史:近代日本における病のイメージ』(1995年2月15日刊行,名古屋大学出版会,名古屋,iv+398+31 pp.,ISBN:4-8158-0246-7版元ページ)は,結核菌が日本文化に与えた影響を論じる.不治の肺病をあえて “ロマン化” する日本文化は,社会の中に浸透する病原菌と人間とのもうひとつの付き合い方だった.

おもしろいことに,これらのパンデミック本はいずれも初版が出版されたのちいったん品切れとなるものの,新たなパンデミックが発生するたびに重版・増刷されている.流行病に対する人間社会固有の “集団的健忘症” の傾向がこんなところにも現れているようだ.