『読む・打つ・書く —— 読書・書評・執筆をめぐる理系研究者の日々』目次(ほぼ確定)

三中信宏
(2021年6月15日刊行予定,東京大学出版会東京大学出版会創立70周年記念出版],東京,xiv+337+◆ pp., 本体価格2,800円(税込価格3,080円), ISBN:978-4-13-063376-5版元ページ

版元ページ公開.三校ゲラが届いた.ノンブルはいま作成中の索引部分を除いて確定した:

目次案(2021年4月7日版)
================================

本噺前口上 —— 「読む」「打つ」「書く」が奏でる “居心地の良さ” i

プレリュード —— 本とのつきあいは利己的に 3

 1. 読むこと:読書論 3
 2. 打つこと:書評論 6
 3. 書くこと:執筆論 7

第1楽章 「読む」—— 本読みのアンテナを張る 13

 1-1. 読書という一期一会 14
 1-2. 読む本を探す 17
  1-2-1. 探書アンテナは方々に張る 18
  1-2-2. “ランダム探書” がもたらす幸運 20
  1-2-3. 多言語が張る読書空間の次元 25
 1-3. 本をどう読むのか?—— “本を学ぶ” と “本で学ぶ” 28
 1-4. 紙から電子への往路 —— その光と闇を見つめて 33
  1-4-1. 検索の舞台裏で 34
  1-4-2. タイプとトークン 38
  1-4-3. 薄切りされる電子本 41
  1-4-4. 知識の断片化と体系化 44
 1-5. 電子から紙への復路 —— フィジカル・アンカーの視点 48
  1-5-1. その電子本の原本は何か 49
  1-5-2. 物理的存在としての “フィジカル・アンカー” 50
  1-5-3. 電子本と原本との対応:ヘッケル『生物の一般形態学』を例に 52
 1-6. 忘却への飽くなき抵抗 —— アブダクションとしての読書のために 56
 1-7. “紙” は細部に宿る —— 目次・註・文献・索引・図版・カバー・帯 65
 1-8. けっきょく,どのデバイスでどう読むのか 78

インターリュード(1):「棲む」—— “辺境” に生きる日々の生活 83

 1. ローカルに生きる孤独な研究者の人生行路 83
 2. 限界集落アカデミアの残照に染まる時代に 91
 3. マイナーな研究分野を突き進む覚悟と諦観 96

第2楽章 「打つ」—— 息を吸えば吐くように 101

 2-1. はじめに:書評を打ち続けて幾星霜 102
 2-2. 書評ワールドの多様性とその保全豊崎由美『ニッポンの書評』を読んで 108
 2-3. 書評のスタイルと事例 118
  2-3-1. ブックレポート的な書評:山下清美他『ウェブログの心理学』 119
  2-3-2. 長い書評と短い書評:隠岐さや香『文系と理系はなぜ分かれたのか』 125
  2-3-3. 専門書の書評(1):倉谷滋『分節幻想』 135
  2-3-4. 専門書の書評(2):ジェームズ・フランクリン『「蓋然性」の探求』 141
  2-3-5. 闘争の書評,書評の闘争(1):Alan de Queiroz『The Monkey’s Voyage』 164
  2-3-6. 闘争の書評,書評の闘争(2):金森修『サイエンス・ウォーズ』 175
 2-4. 書評頻度分布の推定とその利用 186
  2-4-1. 書評執筆実験の試み:岡西政典『新種の発見』を素材として 189
  2-4-2. 頻度分布からわかること:書評の平均と分散と外れ値 197
  2-4-3. 書評者は著者と読者にいつも評価されている 199
 2-5. 書評メディア今昔:書評はどこに載せればいいのか 201
 2-6. おわりに:自己加圧的 “ナッジ” としての書評 204

インターリュード(2):「買う」—— 本を買い続ける背徳の人生 211

 1. 自分だけの “内なる図書館” をつくる 211
 2. 専門知の体系への近くて遠い道のり 220
 3. ひとりで育てる “隠し田” ライブラリー 224

第3楽章 「書く」—— 本を書くのは自分だ 229

 3-1. はじめに:“本書き” のロールモデルを探して —— 逆風に立つ研究者=書き手 230
 3-2. 「読む」「打つ」「書く」は三位一体 236
  3-2-1. 知識の断片から体系へ —— 本の存在意義 237
  3-2-2. 学術書と一般書は区別できるのか 241
  3-2-3. ライフスタイルとしての理系執筆生活 246
 3-3. 千字の文も一字から —— 超実践的執筆私論 250
  3-3-1. 言わぬが花,知らぬは恥 ……『過去を復元する』『生物系統学』 252
  3-3-2. 前を見るな,足元だけ見よ ……『系統樹思考の世界』『分類思考の世界』 256
  3-3-3. “シルヴィア前” と “シルヴィア後” 259
  3-3-4. いかなる進捗もすべて晒せ ……『系統樹大全』 264
  3-3-5. 「整数倍の威力」:塵も積もれば山となる
        ……『統計思考の世界』『思考の体系学』『系統体系学の世界』 267
 3-4. まとめよ,さらば救われん —— 悪魔のように細心に,天使のように大胆に 276
  3-4-1. チャートとしての目次 277
  3-4-2. 土俵としての文献リスト 281
  3-4-3. “初期値” からの山登り:書いた文章を作品にするには 284
  3-4-4. 註をどうするか 287
  3-4-5. 本文テクストと図版パラテクストの関係 289
  3-4-6. その他のパラテクストたち:索引・カバー・帯 291
 3-5. おわりに:一冊は一日にしてならず ……『読む・打つ・書く』ができるまで 292

ポストリュード —— 本が築く “サード・プレイス” を求めて 297

 1. 翻訳は誰のため?:いばらの道をあえて選ぶ 298
 2. 英語の本への寄稿:David. M. Williams et al.『The Future of Phylogenetic Systematics』 302
 3. “本の系統樹” : “旧三部作” から “新三部作” を経てさらに伸びる枝葉 306

本噺納め口上 —— 「山のあなたの空遠く 『幸』住むと人のいふ」 311

 

謝辞 318
文献リスト [337-321]
事項索引 [◆-338]
人名索引 [◆-◆]
書名索引 [◆-◆]

『Everything You Always Wanted to Know about Lachmann’s Method: A Non-Standard Handbook of Genealogical Textual Criticism in the Age of Post-Structuralism, Cladistics, and Copy-Text』目次

Paolo Trovato[Traduzione di Federico Poole]
(2017年4月刊行, Libreriauniversitaria.it edizioni[Storie e linguaggi: 7], Padova, 363 pp., ISBN:978-88-6292-860-1 [pbk] → 版元ページ

写本系統推定における「ラハマン法」についての専門書.分野を問わず系統推定法については怠りなく探書アンテナを張っていたつもりだったが.イタリアの版元からこういう本が出ていたとはぜんぜん知らなかった.うかつだった.本書の目次を見ると,伝統的なラハマン法にの歴史的解説に加えて,写本間の系統樹と系統ネットワークを推定するコンピューター手法にも触れられている.

ラハマン法を核とする写本系統推定の方法については拙著『系統体系学の世界』の中でも言及した(pp. 299-307).ラハマン法は生物体系学で言う分岐学的方法(最節約法)と事実上同じであることは確かだ.また,ほぼ同時期に,みんぱくの英文誌にも関連論考を出したこともある:Nobuhiro Minaka 2018. Tree and network in systematics, philology, and linguistics – Structural model selection in phylogeny reconstruction. Senri Ethnological Studies, 98: 9-26. pdf [open access].

しかし,残念ながら,ワタクシ自身は,現在の日本で写本系図学の理論的研究をどこで誰がどのように進めているかについてまったく情報を持ち合わせていない.


【目次】
Foreword[Michael D. Reeve] 9
Preface 13
Acknowledgements 25
How to Use This Book 27
General Bibliography 31
Introduction 39

Part 1. Theories

1. “Lachmann's Method” 49
2. Bédier's Schism 77
3. A More In-depth Look at Some Essential Concepts 109
4. Hghs and Lows of Computer-assisted Stemmatics 179
5. The Criticism of Linguistic Features in Multiple-witness traditions 229
6. The ineluctability of critical Judgment (Choice of variants, conjecture) 243

Part 2. Practical Applications

7. A Simple Tradition. The Tractatus de locis et statu sancte terre jerosolimitane 275
8. A Tradition of average Difficulty. Jean Renart's Lai de l'ombre 289
9. A Very Complicated Tradition. Dante's Commedia 299

Coclusion 335
Preface to the Second Edition 341
General Index 347
List of Passages Discussed 363


『羊皮紙のすべて』

八木健治
(2021年3月10日刊行,青土社,東京, 16 color plates + 508 + iv pp., 本体価格4,200円, ISBN:978-4-7917-7350-3版元ページ

計500ページ超.前半の「基礎編」では羊皮紙の歴史から製法・使用に関する概説,後半の「実践編」では印刷から修復まで説明する.カバージャケットは羊皮紙.手触りとても心地よし.

『虫たちの日本中世史:『梁塵秘抄』からの風景』

植木朝子
(2021年3月1日刊行,ミネルヴァ書房[叢書〈知を究める〉・19],京都, vi+327+11 pp., 本体価格3,000円, ISBN:978-4-623-09058-7版元ページ

蝶・蛍・蜻蛉・蟷螂・蟋蟀・虱・蜘蛛・稲子麿などなど中世の人々の生活と昆虫との関わりを描く.とてもめずらしい視点の日本史書

『風水:中国哲学のランドスケープ』書評

エルネスト・アイテル[中野美代子中島健訳]
(2021年3月10日刊行,筑摩書房ちくま学芸文庫・ア-46-1],東京, 210 pp., 本体価格1,000円, ISBN:978-4-480-51028-0版元ページ

19世紀の香港に長年滞在したドイツ系イギリス人宣教師だった著者は「風水とは自然学の別名にすぎない」「中国では,自然科学は,ついぞ育たなかった」(p. 18)と述べる.「風水」の構築者たちは「自然についてのほんのちょっぴりの知識によって,みずからの内なる意識からの自然学の全体系を発展させ,古代の伝承におけるドグマ的な公式にしたがってその体系を説明したのである.しかしながら,実際的かつ経験的な探求が欠如していたことは嘆かわしい」(p. 19)と言いきるアイテルは,「風水」の理論を西洋科学とは異なる「自然学」の一体系として解釈しようとする.p>

 

西洋近代科学との対比が随所に見られるので,本書を読み進む上では意外にわかりやすかった.その一方で,「風水」を特徴づけるダイアグラム(「羅盤」)について,本書では詳細な分析されているが,これはとても手に負えるものではない.アタナシウス・キルヒャーの円環図や三浦梅園の『玄語』を髣髴とさせる.

 

朱子以来一千年にわたって造られてきた「風水」の謎めいた体系はけっきょくのところ「賢い母親の愚かな娘である」(p. 132)とする最後の結論は,その命運がすでに絶たれていることを示唆する.それは「科学」ならざる「学」の宿命であると著者は言いたいのだろう.

 

本書の特筆すべき点は訳者・中野美代子による詳細きわまりない「訳注」「訳者解説」ならびに「訳者解説注」だ.本文よりもよほど情報量が多いかもしれない.さらに文庫化に際してつけられた「解説」もとても読みでがある.ワタクシ的には,本書を訳した中野美代子はかつて高校時代に読んだ『砂漠に埋もれた文字:パスパ文字のはなし』(1971年9月15日刊行,塙書房塙新書・38])あるいは『肉麻図譜:中国春画論序説』(2001年11月15日刊行,作品社[叢書メラヴィリア8], ISBN:4-87893-758-0)の著者として前から知っていた.

 

本書『風水』では異質な「学」(not「科学」)としての「風水」が強調されている.対置図式としてはわかりやすいが,そのまま「東洋 vs. 西洋」と直結させるのは要注意かもしれない.たとえば,ドイツ初期近代の「ルルス主義」を考察した:Anita Traninger 『Mühelose Wissenschaft: Lullismus und Rhetorik in den deutschsprachigen Ländern der Frühen Neuzeit』 (2001年刊行,Wilhelm Fink Verlag[Humanistische Bibliothek Reihe I. Abhandlungen: Band 50], München, 296 pp., ISBN:978-3-7705-3579-8版元ページ著者サイト)は,ルルス主義を知識の体系化を目指した別種の “科学” ととらえている.

『路上のポルトレ —— 憶いだす人びと』感想

森まゆみ
(2020年11月20日刊行,羽鳥書店,東京, 328 + iv pp., 本体価格2,200円, ISBN:978-4-904702-83-3版元ページ

ここのところの寝み本.ワタクシ自身が本書の舞台である “谷根千エリア” に長年住んでいたので,ここに書かれている場所や店や人物には思い当たることが少なくない.ここ一年ほどは都内に行く機会がなくなったせいで,あのあたりをぶらぶら歩きをする機会がほとんどなくなってしまった.

第I部「こぼれ落ちる記憶」読了.ワタクシ自身が本書の舞台である “谷根千エリア” に長年住んでいたので,ここに書かれている場所や店や人物には思い当たる箇所が少なくない.続いて,「II 町で出会った人」「III 陰になり ひなたになり」「IV 出会うことの幸福」と寝読みし続けて,最後まで読了.

ポルトレ(portrait)」という言葉を本書で初めて知った.本書は著者にゆかりのある故人たちの想い出を語るエッセイ集.ひとりひとりの追想ももちろん興味深いが,思いもよらない人どうしのつながり(そして場所とのつながり)が垣間見えてくる.それらの追想をこうして束ねられるのは著者ならではの仕事なのだろう.

ワタクシ自身も谷根千エリアに十年あまり棲んだのでそれなりにいろいろ想い出がある.今はなきある千駄木の飲み屋の “ポルトレ” はすでに活字になっている:三中信宏 2015.[新潟・酒かたり]かつて千駄木の路地裏に新潟の銘酒あり.cushu手帖(にいがた酒の陣2016準備号)pp. 81-83.その店では『路上のポルトレ』に登場する人物にも交わったことがある( “大正美人” とか “クレオパトラ” とか爬虫類の有名人とか).本書をひもとくと,時代と場所を越えて得も言われぬなつかしさを感じるとともに,ワタクシの記憶と経験とも響き合うところが少なくなかった.断片的であっても “ポルトレ” は書き残す価値がある.